プロローグ 葉沙の運命


○学校○


葉沙「ウガアアアアァァァァァァ! まったくデッキが思い浮かばん!!」

 葉沙は机に突っ伏したあとでそう叫んだ。膝に届くほどの黒髪を二つに結い上げ、少し釣り目ぎみの瞳は見るものにネコの印象を与える。見た目には大人しそうな女の子に見えるだろう。

 だが性格はというと・・・・・・

葉沙「クッソー! あのエセ外人め、あんな卑怯な手を・・・今度あったらボコボコにしてやるぞ」

 女の子の言葉とは思えないセリフをマシンガンのように連呼する葉沙。はたから見ると・・・とてもはしたない。

 それを真剣に聞いているこの少女はもっと不幸かも知れないが・・・・・・

シルビア「いいかげんうるさいどすえ。女の子はもうちょっとおしとやかにせんといけません」

 葉沙の親友、シルビアはイギリス系の血を引いたクォータである。光を反射させる銀髪と灰色の瞳が印象的な少女である。京都弁に似た発音の仕方で話すということもあって、ギャップのはげしさを感じさせる。

葉沙「そんなこと言ったってさ。シルビアも見てたでしょ! あのヤロー、エグゾディア出しやがって・・・絶対グールズかなんかだ! んじゃなきゃ、こっちがやってらんない」

シルビア「まあまあ抑えてなぁ。そんな葉沙のために、うちがわざわざこれ用意したんやけど?」

 シルビアが1枚のチラシを取り出した。見出しには「デュエリストよ! 抽選会に来たれ」と書いてある。

 葉沙はジッとそのチラシを見つめたあと、

葉沙「この景品・・・・・・最新式のデュエルディスクじゃない! これ欲しかったんだぁ〜♪ よし決めた! シルビア、今日行くわよ! 今すぐ突撃よ!」

シルビア「葉沙が元気になってよかったわぁ」

 かくして二人は抽選会へと足を運ぶのだった。


○抽選会場○


 会場には多くのデュエリストが集まっている。だが景品が飾られている所を見ると、まだ特賞を出した者はいないようだ。

葉沙「私のために残っていたか、デュエルディスク。ご主人様がすぐに行ってやるから待ってなよ」

シルビア「気が早いどすなぁ。ハズレとか考えたことないんですの?」

葉沙「運命は私の手の中にあるのよ。はずすって言葉は存在しないわ!」

シルビア「こうなった葉沙は止めれへんからなぁ。これ、チケットないとクジ引けへんよ」

葉沙「そりゃそうね。んじゃ行ってくるから、余所見せずに見てなさいよ」

 葉沙は意気揚々と係員にチケットを手渡すと、クジの入った箱に手を突っ込んだ。なにやら呪文のような独り言を口走り、1枚のクジを抜き出す。

 三角に折られたクジを慎重に剥がす。

 するとそこには・・・・・・

シルビア「すごいやない。1等やなんて・・・運命を手繰り寄せたんやねぇ」

葉沙「そんな・・・私の狙いは特賞だったのに・・・どうして1等なんて引いてるのよ!」

シルビア「でも1等でもすごいんやないの? 普通ハズレ引くんが当たり前やし」

葉沙「私は普通じゃないから私なのよ! 他人と同じなんて絶対嫌なんだから!」

シルビア「そういうこだわりがあるから壁を越えられへんのに・・・」

葉沙「なんか言った?」

シルビア「なんでもあらへんよぉ。それより景品は貰わんでいいん?」

葉沙「そっそんなことないわよ。折角だから貰ってあげるに決まってるでしょ」

 葉沙は不満そうな係員から1等の景品を貰った。どこにでもありそうな1パックだったが、特別なものらしい。初めてみるパッケージには3人の女の子が描かれている。

シルビア「きっと限定品なんやろねぇ。さて、うちもクジ引かななぁ」

 シルビアもクジを引いた。葉沙とは違って気楽な感じである。まるで景品に興味がないようにも見える。

シルビア「あら・・・特賞」

葉沙「なんですとぉ〜〜〜〜!!」

 葉沙はシルビアのクジを奪い取り、中を確認する。みるみる顔色が悪くなり、呼吸も荒くなる。

 身体を小刻みに震わせながら、

葉沙「ふざけんなぁ〜〜! どうしてシルビアが! この日のために一週間も断食して空腹に耐え、自らを不幸にすることで幸運値を高めたというのに」

シルビア「葉沙がこの抽選会を知ったんは今日やろ?」

葉沙「うう〜〜〜!」

 顔を膨らませて不機嫌さをありありと見せつける葉沙。

 子供のようなわがままぶりである。

 あきれた様子で見ていたシルビアが溜息混じりに一言。

シルビア「ほなこれ、葉沙にプレゼントしよかぁ? うちは前の大会で同じの貰ったし」

葉沙「ホント!」

シルビア「うちは葉沙にウソ言いません」

葉沙「やったぁ〜♪ ありがと、シルビア」

 ウサギのように跳ねながら喜ぶ葉沙。それを見るシルビアも嬉しそうに見える。

シルビア「その元気なら、今度の大会には出られそうやねぇ」

葉沙「当ったり前よ! 見てなさい。私の真の実力をみんなに焼き付けてやるんだから」

 路上で罵声のような意気込みを露わにする葉沙。周りから怪しい視線で見られていることも気にせずにガッツポーズを取るのだった。



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