目にクマを作りながら登校した葉沙は授業中に爆睡。
その際机から倒れたのだが、それでも起きなかったことが不幸にも勘違いされ、保健室に連行された。
保険の先生をカンカンに怒らせたあと、購買部に直行して他の生徒と焼きそばパンとカスタードパン争奪戦に勝利。
コーヒー牛乳を片手にシルビアの膝枕を満喫する。
午後の授業もノートになにやら不思議な文字を書き連ね、熱中のあまり見事小テストで0点を叩き出した。
こうしてなんとか授業を乗り切った?葉沙はシルビアとともにデュエルセンターに足を運んだのだった。
デュエルセンターとは、世界中で流行っているカードゲーム、デュエルモンスターズ専門に取り扱うお店で、カードや商品の販売、デュエルルームと呼ばれる対戦場などがある。まさしく全てのデュエリストのための場所だ。
葉沙「紅姉、最新弾のパックはどこ!?」
従業員に噛み付く勢いで話しかけた葉沙。とても知り合いのようには見えない。
肩に届くくらいのショートカット、指定の制服を見事に着こなし、その知的な顔立ちは、まさしくカッコいいお姉さんである。
もちろん、葉沙と姉妹というわけではない。
紅「それがね、思った以上に売れ行きがよくて・・・でもまだカウンターに残っていたような気がしたわよん」
それを聞くと葉沙はシルビアの存在を忘れ、電光石火でカウンターへと向かった。なんという自己中な性格。
シルビア「葉沙をおちょくるんは、やめてもらえます?」
紅「あら、彼女も結構乗り気だったような気がしたけど?」
シルビア「慌てんでも、うちが予約しといた分から分けてあげるんどすから」
紅「あいかわらず面倒見がいいことで」
シルビア「そうやありません。ただうちは葉沙が好きなだけどすから」
すでに最新弾パックを開いて喜ぶデュエリストの波を掻き分け、なんとかカウンターに到着した葉沙。
葉沙「最新弾のパックは!?」
従業員「危なかったわね。これで最後だったのよ」
そう言って最後のパックを差し出されながら、葉沙は感動していた。
葉沙(やったわ、私! 私は勝ち取ったのよ! 神頼みなんかしてないけど、やれば出来るのよ!そうなのよ葉沙!! 神様なんてペッペよ! バ〜カ! これを奪えるものなら奪ってみなさい!!)
勘違いもいい所である。自分の世界に入り込む寸前で現実に帰った葉沙は、財布からお金を取り出そうとした。
だが、神様にもプライドというものがあるらしい。派手な服の男が葉沙の横に立つと、
派手な男「予約しといた○○いうけど」
従業員「少々お待ちください」
そう言って出してきたのは、なんと最新弾のパックの入った箱。
しかも10個はあるだろう。いわゆる大人買いである。
普段ならば問題ないであろうこの行動も今の葉沙には、油に火を注ぐ行為と同じであった。
いつもならばここでシルビアが止めに入るのだろうが、これも不幸か、シルビアの姿はない。まさしく調教師の手を放れた虎である。
葉沙(私がこれだけ苦労してやっと手に入れたってのに、お坊ちゃまごときが! 世の中間違ってるわ・・・そうか、さっき神様をバカにしたからか。それなら納得だわ。ふっ、神様・・・いや、神ごときの分際で私にケンカ売ろうなんて宇宙が消滅するほどの月日でも早い!!)
葉沙「おいコラ! その派手男! 金持ってるからって調子に乗って! あんたがそんなに予約するから私の買う分が減っちゃったじゃない!」
これまたメチャクチャな発想で神様と男を侮辱する葉沙。
だが、派手な男には全く関係ない。なのにイチャモンつけられる羽目に遭あうとは・・・不幸な人だ。
派手な男「うるさいわい。ちゃんと予約して買うたんやから文句言われる筋合いなんぞないわい」
葉沙「そんな中途半端な関西弁じゃ私は誤魔化せないぞ。今すぐその箱、渡しなさい」
派手な男「そりゃタカリやないか!」
葉沙「うるさい! 正義は私にあるのよ」
とうとうカウンター前で口喧嘩が始まった。さすがは関西人らしき派手な男、
マシンガントークの勢いで文句を言い放つ。が、葉沙も全く引けを取らない。
こちらはガトリングガンさながらの早口であることないこと叫んでいる。周りにいるデュエリストや従業員たちにはいい迷惑だ。
派手な男「せやったら、デュエルで決着つけよおまへんか?」
葉沙「いいわよ。やってやるわ」
派手な男「ただし、負けたら一番のレアカード渡してもらうけど覚悟ええやろな?」
葉沙「いいわよ。どうせ私が負けるはずないんだから」
かくして迷惑騒ぎの張本人たちのデュエルは始まった・・・いいのか、それで?
昨日、シルビアに貰ったデュエルディスクを右手に装着し、悠然と立つ葉沙。派手な男はすでにデッキをセットしている。
葉沙「ルールはエキスパートよ。確認なんてしないけど、もし違反してたら、その時点で負けね。抜くなら今のうちよ?」
派手な男「なんや? わいがズルしとるとでも言いたげやないか?」
葉沙「え・・・・・・それ以外にどう聞こえるわけ?」
派手な男「後悔せえや。ドタマ勝ち割ったるさかい」
葉沙&派手な男「デュエル!」
1ターン目
派手な男「わいの先攻、ドローや」
派手な男はカードを眺めながらニヤニヤ笑っている。
葉沙にはそれが癇に障ったのだろう。地団駄じたんだを踏みながらそれに耐えている。
派手な男「わいは〈闇魔界の戦士 ダークソード〉を攻撃表示で召喚するで!」
闇魔界の戦士 ダークソード 闇 戦士族 ☆☆☆☆ ATK 1800 / DEF 1500 ドラゴンを操ると言われている闇魔界の戦士。邪悪なパワーで斬りかかる攻撃はすさまじい。 派手な男「さらに2枚伏せてターン終了や」
2ターン目
葉沙「私のターン、ドローよ」
葉沙(ホーリー・エルフか・・・まずは様子見よね)
葉沙「ホーリー・エルフを守備表示で召喚、ターン終了よ」
ホーリー・エルフ 光 魔法使い族 ☆☆☆☆ ATK 800 / DEF 2000 かよわいエルフだが、聖なる力で身を守りとても守備が高い。 3ターン目
葉沙 LP 4000 手札:2枚 なし ホーリー・エルフ〈表側守備〉 闇魔界の戦士 ダークソード〈表側攻撃〉 なし 派手な男 LP 4000 手札:3枚 派手な男「伏せもなしかい。わいもなめられたもんやな。これでも関西大会で2位やったちゅうのに」
葉沙「ウソ。あんたなんて私、知らない」
葉沙(うわぁ〜だとしたら、さすがに不味かったかな。リバースカード1枚も伏せないでターン終了したの・・・まあ挑発だけは成功したけど)
心の奥底で後悔する葉沙。だが、事態がよくなることはない。ペースを掴んだ派手な男は勢いよくカードをドローする。
派手な男「小娘。残念やけど、わいの実力を見ないかんようやな」
葉沙「なんで残念なのよ? あんたの実力なんて薄皮1枚程度のものでしょ」
派手な男「なら、死に目ェ見せたるわ! 手札から魔法カード〈シールドクラッシュ〉を発動や」
シールドクラッシュ 通常魔法 フィールド上に守備表示で存在するモンスター1体を選択して破壊する。 葉沙「やば!」
フィールドにいた〈ホーリーエルフ〉が岩のように砕け散る。
派手な男「これでフィールドはフリーやな。さらにわいはモンスター1体を生贄に捧げて〈デーモンの召喚〉を攻撃表示で召喚や!」
デーモンの召喚 闇 悪魔族 ☆☆☆☆☆☆ ATK 2500 / DEF 1200 闇の力を使い、人の心を惑わすデーモン。悪魔族ではかなり強力な力を誇る。 派手な男「まだ終わらへんで。リバースカードをオープン。魔法カード〈早すぎた埋葬〉を発動するで。ライフを800支払って〈闇魔界の戦士ダーク・ソード〉を墓地から特殊召喚や」
早すぎた埋葬 装備魔法 800ライフポイントを払う。自分の墓地からモンスターカードを1体選択して攻撃表示でフィールド上に特殊召喚し、このカードを装備する。このカードが破壊された時、装備モンスターを破壊する。 派手な男 LP 4000 → 3200
葉沙「やば!」
派手な男「これでダイレクトアタックされたらどうなるか分かるか? ライフが0になるっちゅうことや!」
シルビア「負ける寸前どすなぁ、葉沙」
紅「ボロボロじゃないのよ。もっとしっかりしなさい」
いつの間に現れたのか、葉沙の後ろにシルビアと紅が立っていた。
葉沙には二人は葉沙の危機を面白がっている節があるように見えた。
葉沙「うるさい! ハンディよハンディ。こっから逆転すんだから大人しく見てなさい」
派手な男「ずいぶん余裕かましてくれるやないか。ほな、そろそろ終わりにするから覚悟せえや。まずは〈闇魔界の戦士ダーク・ソード〉でダイレクトアタックや!!」
〈闇魔界の戦士ダーク・ソード〉が葉沙をめがけて剣を振るう。
葉沙「痛っ!」
葉沙 LP 4000 → 2200
派手な男「調子に乗るから、こないな目に遭うんやで。わいはこのまま〈デーモンの召喚〉で最後の攻撃や!!」
派手な男「デーモンの召喚の攻撃!魔・降・雷!」
葉沙「なめんじゃないわよ! 私は手札からモンスター効果を発動するわよ」
クリボー 闇 悪魔族 ☆ ATK 300 / DEF 200 手札からこのカードを捨てる。自分が受ける戦闘ダメージを1度だけ0にする。この効果は相手のバトルフェイズ中のみ使用する事ができる。 フィールドに現れた〈クリボー〉が葉沙の目の前で増殖を始め、爆発しながら〈デーモンの召喚〉放った雷を弾いた。
派手な男は舌打ちしながらターン終了を宣言する。
4ターン目
葉沙「ホントに危なかった・・・でも私の不利に変わりなし・・・か」
紅「運良くピンチを切り抜いたってところかな。でも次のターンで手を打たないと、負けるわね・・・」
シルビア「それでしたらきっと大丈夫どすえ。葉沙は強いどすからぁ」
紅の一言に微笑を浮かべるシルビア。それを聞き耳を立てていた葉沙は心底思った。
葉沙(プレッシャーかけてくれちゃってさ。でも・・・私は・・・)
葉沙「私のターン、ドロー・・・・・・やっぱり、あんたは私より格下だったみたいね」
派手な男「よっぽどええカード引けたんか? だったら覆して見いや」
葉沙「言われなくてもそうするわよ! 私は〈スィンセリティ・ガールLV3〉を攻撃表示で召喚よ」
スィンセリティ・ガールLV3 光 魔法使い族 ☆☆☆ ATK 1200 / DEF 1200 このカードがフィールド上に表側表示で存在し、このカードを除くモンスターが特殊召喚に成功した時、このカードを墓地に送る事で「スィンセリティ・ガールLV5」1体を手札またはデッキから特殊召喚する。 派手な男「なんやそのザコモンスターは? 確かにレベルモンスターっちゅうんは強いカードやけどな、レベル低かったら意味ないんやで」
葉沙「早とちりしすぎ。そんなあんたにいいこと教えてあげる。〈スィンセリティ・ガール〉はね、三姉妹の中の三女で大人しい性格なの。だから、心配性の姉二人は妹がピンチになると、どこからともなく駆けつけるのよ。これがその証明。手札から魔法カード〈誠実な呼びかけ〉を発動!!」
誠実な呼びかけ 通常魔法 「スィンセリティ・ガール」と名の付いたカードがフィールド上に存在する時のみ発動可能。デッキから「プレズント・ガールLV3」と「サイレンス・ガールLV3」を1体ずつ選択しフィールド上に特殊召喚する。 葉沙「このカードは『スィンセリティ・ガール』と名の付いたモンスターがフィールド上にいるときに発動出来るカード。この効果で、デッキから〈プレズント・ガールLV3〉と〈サイレンス・ガールLV3〉をデッキから特殊召喚できるのよ!」
派手な男「なんやてェ!?」
サイレンス・ガールLV3 光 魔法使い族 ☆☆☆ ATK 1400 / DEF 1000 このカードがフィールド上に表側表示で存在し、このカードを除くモンスターが特殊召喚に成功した時、このカードを墓地に送る事で「サイレンス・ガールLV5」1体を手札またはデッキから特殊召喚する。相手フィールド上の表側表示魔法カード1枚を破壊する。この効果は1ターンに一度メインフェイズにしか使用できない。
プレズント・ガールLV3 光 魔法使い族 ☆☆☆ ATK 1300 / DEF 1100 このカードがフィールド上に表側表示で存在し、このカードを除くモンスターが特殊召喚に成功した時、このカードを墓地に送る事で「プレズント・ガールLV5」1体を手札またはデッキから特殊召喚する。 葉沙「まだまだよ。モンスターの特殊召喚に成功した場合、〈スィンセリティ・ガール〉の特殊効果が発動できる」
スィンセリティ・ガールLV5 光 魔法使い族 ☆☆☆☆☆ ATK 2300 / DEF 2300 このカードがフィールド上に表側表示で存在し、このカードを除くモンスターが特殊召喚に成功した時、このカードを墓地に送る事で「サイレンス・ガールLV7」1体を手札またはデッキから特殊召喚する。フィールド上に存在するカード1枚をゲームから除外する。この効果は1ターンに一度メインフェイズにしか使用できない。 葉沙「〈スィンセリティ・ガールLV5〉を攻撃表示で特殊召喚!!」
派手な男「せやけど、わいの〈デーモンの召喚〉の攻撃力は2500。そのモンスターじゃ倒せへんで」
葉沙「そう? 実は〈スィンセリティ・ガールLV5〉の特殊効果って強いのよ」
葉沙の目の前に立ちふさがっていた〈デーモンの召喚〉がフィールドに吸い込まれていく。
その状況がまるで理解できない派手な男が喚わめき散らす。
派手な男「なんや! なにが起きたんや!?」
葉沙「『スィンセリティ・ガールLV5』の特殊効果よ。フィールド上にあるモンスターカード1枚をゲームから除外することができる効果。もちろん、この効果は1ターンに1回しか使えないけどね」
派手な男「でもまだ、わいのライフは残るで。そうなれば、わいは逆転できるんやで。やっぱ小娘、お前の負けや」
葉沙「次のターンなんて来ないわよ。さらに〈サイレンス・ガールLV3〉の効果を発動。フィールド上にある魔法カード1枚を破壊できるのよ・・・意味がおわかり?」
全身が汗だらけになる派手な男。優勢に立っている葉沙は楽しくてしょうがなさそうだ。
さっきの仕返しといわんばかりに踏ん反り返っている。それを見ていたシルビアと紅は、
紅「あらあら不幸よねん。葉沙にケンカ売るとすぐこうなるんだからん♪」
シルビア「さすが葉沙やねぇ。昨日手に入れたカードをもう使いこなしてるわぁ」
葉沙の後ろで笑っている二人に対して派手な男は不幸の真っ只中まっただなかのような顔色をしていた。
〈早すぎた埋葬〉が破壊され、今度は自分のフィールドのモンスターカードが居なくなってしまったのだ。
伏せカードがまだ1枚残っているものの、今の顔色を見られたらブラフであることなど明白だった。
葉沙は不敵な笑みを浮かべると、迷うことなく攻撃を開始した。
葉沙「一斉攻撃よ! いっけぇーーー!! 魔術師三姉妹!!」
3体のモンスターが杖を振り上げて呪文を唱えはじめた。三色に輝く球体が派手な男を襲う。
派手な男「なんやてェ!?」
派手な男 LP 3200 → 0
デュエル終了!!
勝者――葉沙!!葉沙「よっしゃ! 私の勝ちね」
シルビア「すごかったどすなぁ」
紅「まさか逆転するなんて思ってもみなかったわよん」
派手な男「わいがこんな小娘なんかに負けたやなんて」
葉沙「んじゃ敗因を教えてあげる。相手の行動にいちいち反応してるヤツなんか・・・負けて当然なのよ」
派手な男「なんやてェ!?」
シルビア「分かってないみたいどすなぁ」
こうして派手な男から最新弾のパックを1箱奪い取った葉沙は、意気揚々と帰宅した。
その場に座り込んでしまった派手な男に同情した紅が一言。
紅「そう気を落とさないでん。不幸の後には幸運がって言うじゃない?」
この一言の後で葉沙が空き缶につまずいて転んでドブに突っ込みそうになったことはシルビアただ一人だけが目撃していたという。