第2話 不良の用心棒!!


○学校・職員室○


 葉沙は担任の松原の前で苦虫を噛んだような顔をした。

 原因は課題を忘れたことなのだが、それだけでは職員室に呼び出されたりしない。

 そう・・・回数が問題なのである。

松原「琴木、お前これで何回目だ?」

葉沙「さあ? 何回目でしょう」

松原「回数が分からんのか? だったらこのチェックのない課題提出表はなんだ!」

葉沙「それ間違ってます。たぶん3回くらいで提出したと思います・・・・・・まとめて」

松原「まとめて出せばいいってもんじゃないぞ、琴木! お前がそういう態度を取り続けるのなら、こっちもいろいろ考えがあることを肝に銘じとけ!!」

葉沙「イエッサー」

松原「ここは軍隊じゃない!!」


○学校・職員室前廊下○


 松原の怒鳴り声を思い出しながら笑うシルビア。一方、葉沙はいささか不機嫌な様子である。

シルビア「それは葉沙が悪いどす。毎日ちゃんとやってこれば問題ないのに」

葉沙「だってやる気が出てこないんだもん。生徒のやる気を引き出せない教師が悪いのよ」

 あいかわらずの毒舌である。課題のやる気を教師のせいにするなど・・・

シルビア「せやったら今日、うちの家に来いへん? どうせ分からんとか言いはってやらないんやろぉ? うちが教えてあげるどすからぁ」

葉沙「そうだなぁ〜それもいいかも・・・・・・ハッ! まさか、そう言っておきながら、実は神を超える美貌びぼうの持ち主であるこの私に毒牙を!」

シルビア「残念やけど、うちにそういう趣味はありません。葉沙がサボりすぎるからどすえ。本当は7時からの『デュエルモンスターズ幕末伝』を見たいからて、うちのやる気を削ぐようなことを言いはるなんて」

葉沙「バレたか・・・・・・しょうがないか、分かった。行くよ」

シルビア「ほな放課後に南校門前で待ってますえ」

葉沙「同じクラスなんだから、授業終わったらそのまま行けばいいじゃない」

シルビア「こういうんは形が重要なんどす」

葉沙「そうかな・・・まあいいや」

 疑問に感じたことを心の奥にしまい込んで、葉沙はシルビア宅に行くことを決めた。


○学校・南校門前○


 汗だくになりながら走りこむ野球部員の横を通り過ぎる葉沙。

 シルビアは先に教室を出て行ったため、今は一人だ。

葉沙(どうせ校門前までなんだから一緒に行けばいいのに・・・ん?なんだろ?)

 校門前に人だかりが出来ていた。葉沙はふと嫌な予感を感じてしまった。

 正直な身体は真っ先に逃げろ信号を出している。

葉沙(まさかだと思うけど・・・でもシルビアが待ってるしなぁ・・・でももしよ?もしアイツらだったら不味まずいことになるよね)

 葉沙の記憶する人物とは隣の学校の不良生徒たちのことだ。

 以前、シルビアと二人で買い物をしていたときのことである。たまたま絡んできた男たちを完膚なきまでに殴り倒したことがあった。

 しかも三十名弱の数を。運動神経抜群の葉沙〈大量に武器を所持〉と武道の心得のあるシルビアにとっては大したことではなかったのだが・・・・・・

シルビア「そないなこと言わはっても知らないものは知りません」

葉沙(ああ〜シルビアがからまれてるよ。もうダメだな・・・これで夏休みは無くなっちゃったわ。それどころか単位とかそういうレベルではなくて、退学ものかもしれない)

 過去の不始末を反省する葉沙だと思ったが、

葉沙(はっ!私ってどうしてそんな簡単なことに気がつかなかったんだろ・・・教師にバレる前に処理してしまえばいいじゃない。もしバレたとしても襲おそわれたってことにすれば・・・ふっふっふ)

 そんなことを考えるはずがなかった。

葉沙「ま、とりあえず加勢に行くべきよね。さすがのシルビアでも、数で押されたら大変だし」

 葉沙はシルビアの声が聞こえたほうに走り出した。人だかりを押しのけていくと、

 不良に囲まれたシルビアの姿があった。数は20人弱、全員身体のどこかに包帯を巻いている。

不良A「コラワレェ、あんま調子ノっとるとシバくぞコラァ!」

不良B「さっさとあの女出せやコラァ!この前の礼せにゃならんのじゃ」

不良C「そうじゃボケェ!催涙ガスやらスタンガンならまだしも、改造銃やら硫酸のビンやら真剣は卑怯じゃ!」

 貯まった鬱憤を爆発させる不良たち。まあ納得ではあるが、相手が悪すぎる。

葉沙「だってコイツら、さっきから聞いてればウジウジウジウジと鬱陶しい。男がそんなもんにこだわってんじゃないっての」

不良D「このタカビー女め。後悔すんのは今のうちじゃコラァ!」

 怒鳴り声は変わらないものの、若干後ろに後ずさりする不良たち。よほど怖い目に遭わされたに違いない。

葉沙「ふん!この腰抜けどもめ!この神を超える美貌の持ち主である私に刃向かおうなんて100万回分の人生でも足りないわ」

シルビア「いいかげん、虐めるのはやめはったら?」

葉沙「いいのよ。このくらい言っておかないと、あとが大変なんだから」

 めんどくさそうに言う葉沙。だが、さすがの不良たちもなんの対策もなしに来た

 わけではないようだ。葉沙の一言に笑い返して一言。

不良E「残念じゃが今日の相手はワシたちじゃない。」

 わざわざ用心棒雇うたんや。先生、お願いします

葉沙「不良のくせに用心棒なんて・・・贅沢な不良どもめ!親の金を無駄なことに使ってんじゃないわよ!!」

不良F「ちゃんとバイトして稼いだ金じゃボケェ!」

 要らぬボケとツッコミに登場シーンを逃したらしく、右往左往している用心棒。

 不良たちもそのことにようやく気がついたらしく、葉沙を指差しながら相手を伝えた。

 全身を黒いローブで隠し、顔にもサングラスとマスクを装着している。

 よほど姿を見られたくないのか、それとも日焼けしたくないのか、どちらにしても変態に

 勘違いされても仕方がない格好をしていることに違いはない。

用心棒「ワタシの名は闇のデュエリスト。千年アイテムの使い手にして最強のデュエリストなり」

 明らかに機械を通しているであろう音声。静寂が辺りを支配する・・・沈黙。

 そして次に湧き起こったのは笑いであった。

葉沙「アッハッハッハッハッハッハ!キャハハハハハ!お腹が・・・お腹がよじれる・・・苦し・・・苦しすぎる・・・アハハハハ」

 見事なほどの笑いっぷりである。ここまでくると相手をムカつかせる効果抜群だろう。

 そしてそれは葉沙に留まらず、ほかの生徒たちまで同様だった。

 シルビアも口とお腹を押さえながら、しゃがみ込んでいる。我慢してつもりでいるのだろうが、身体がそれを許してくれないようだ。

シルビア「あかんよ葉沙・・・そんなに笑うたら・・・失礼・・・」

 どうやらツボにはまったらしい。

不良G「笑うな、お前らァ」

 赤面しながら用心棒をかばう不良たち。かなり恥かしかったらしい。だが、用心棒はというと、平然と立ち尽くしている。

 表情もサングラスとマスクが隠しているために確認することはできないが、おそらく動揺していないだろう。

 きっと言われ慣れているに違いない。

用心棒「ワタシの相手はどいつだ?」

葉沙「私だけど・・・っていうかその服を選ぶなんてセンス悪すぎ、ダサい、ウザい、キモい、私の視界に入るな・・・目が腐る」

 仮にも初対面の人にこんなことを言うなんて性格が良い悪い以前の問題である。

 それにも堪えていないのか、ローブの中からデュエルディスクを付けた左腕を出し、デッキをセットした。

 その行動に葉沙も応えるようにカバンの中からデュエルディスク取り出して構える。

葉沙&用心棒「デュエル!」

1ターン目

葉沙「私の先攻、ドロー」

葉沙(サイクロンか・・・これなら伏せておいても大丈夫ね)

葉沙「魔法カード〈融合〉を発動。〈クリッター〉と〈心眼の女神〉を融合して〈クリッチー〉を攻撃表示で特殊召喚よ」

融合通常魔法
手札またはフィールド上から、融合モンスターカードによって決められたモンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。

クリッター悪魔族☆☆☆
ATK 1000 / DEF 600
このカードがフィールド上から墓地に送られた時、デッキから攻撃力1500以下のモンスター1体を選択し、お互いに確認して手札に加える。その後デッキをシャッフルする。

心眼の女神天使族☆☆☆☆
ATK 1200 / DEF 1000
このカードを融合素材モンスター1体の代わりにする事ができる。その際、他の融合素材モンスターは正規のものでなければならない。

クリッチー魔法使い族☆☆☆☆☆☆
ATK 2100 / DEF 1800
融合:クリッター+黒き森のウィッチ

シルビア「葉沙? どうして手札融合しはったん?」

葉沙「なんで?」

シルビア「〈クリッター〉を召喚してから融合しないと、効果の意味がないんやない?」

 葉沙はふとクリッターの効果を思い出す。思わずアッという一言を口から漏らしたあと、

葉沙「ハンディよ、ハンディ。一応先攻のほうが有利だからねと苦し紛れに呟いた。」

用心棒「ナメられたものだな」

葉沙「そう思うんならカモンベイベーよ!」

シルビア「葉沙、それ古いんやないん?」

葉沙「いいのよ!! 私はリバースカードを1枚セットしてターン終了よ」

2ターン目

用心棒「ドロー」

 短い一言のあとでカードをドローする用心棒。その手つきは少したどたどしかった。

用心棒「ワタシは〈バット〉を表側守備表示で召喚」

バット機械族
ATK 300 / DEF 350
左右のハネに搭載された爆弾を落としてくるメカコウモリ。

葉沙「〈バット〉? なんの効果も持ってない〈バット〉を守備表示ですって!」

用心棒「リバースカードを2枚セット・・・ターン終了」

葉沙「その終了宣言に対してリバースカードオープン、〈サイクロン〉よ! 左のリバースカードを破壊させてもらうわ」

サイクロン速攻魔法
フィールド上の魔法または罠カード1枚を破壊する。

 サイクロンがフィールドに伏せられているリバースカードに襲い掛かる。

 ターンを終了していないためにオープンすることすらできず、無抵抗に破壊された。

 だが、それでも無表情の用心棒に葉沙の苛立ちは募る。

3ターン目

葉沙LP 4000手札:2枚
なし
クリッチー〈表側攻撃表示〉
バット〈表側守備表示〉
伏せ1枚
用心棒LP 4000手札:3枚

葉沙「ずいぶん生意気な態度じゃない・・・私のターン、ドロー」

葉沙(このまま〈クリッチー〉で押し切れば・・・)

葉沙「私は〈クリッチー〉で〈バット〉に攻撃よ」

〈クリッチー〉ATK 2100 VS 〈バット〉DEF 350
撃破!

 葉沙は余裕を見せながら、

葉沙「リバースカードをセットしてターン終了よ」

 だが、彼も自称・闇のデュエリストと名乗っているだけのことはあったようだ。

 葉沙の宣言にすかさず反応する。

用心棒「リバースカードをオープン。〈人海戦術〉」

人海戦術永続罠
各ターンのエンドフェイズ時、そのターンの戦闘によって破壊された自分のレベル2以下の通常モンスターの数だけ、デッキからレベル2以下の通常モンスターを選択して自分フィールド上に特殊召喚する。その後デッキをシャッフルする。

用心棒「このカードの効果でワタシはデッキから〈バット〉を守備表示で特殊召喚」

 フィールド上に再び〈バット〉が現れた。

4ターン目

用心棒「ドロー・・・・・・ワタシの勝利は決まった」

葉沙「なんですって!?」

用心棒「ワタシは〈バット〉を破壊して、魔法カード〈整備不良〉を発動」

整備不良通常魔法
自分フィールド上機械族モンスター1体を破壊して発動する。このターンに召喚されたモンスターは魔法・罠カードの対象にならない。

葉沙「なるほどね。落とし穴とかの対策ってわけか」

用心棒「さらに魔法カード〈機械修理工場〉を発動。墓地に眠る機械族モンスターを2体、特殊召喚する」

機械修理工場通常魔法
自分の墓地に存在する攻撃力500以下の機械族モンスター1体を選択して発動する。選択したカードと同名のモンスターを可能な限り、自分フィールド上に特殊召喚する。

 またまたフィールドに復活した〈バット〉。ここまでしつこいと、なにか起こりそうで恐ろしい。

 葉沙は額に流れる汗を拭いながら、事態を見守ることしかできない。

用心棒「2体の〈バット〉を生贄に〈古代の機械巨人〉を召喚」

古代の機械巨人機械族☆☆☆☆☆☆☆☆
ATK 3000 / DEF 3000
このカードは特殊召喚できない。このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、このカードの攻撃力が守備表示モンスターの守備力を超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。このカードが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動できない。

用心棒「〈古代の機械巨人〉で〈クリッチー〉に攻撃。アルティメット・パウンド!」

葉沙「リバースカードオープン」

用心棒「無駄だ。〈古代の機械巨人〉が攻撃する場合、魔法・罠を発動することはできない」

〈古代の機械巨人〉ATK 3000 VS 〈クリッチー〉ATK 2100
撃破!

葉沙 LP 4000 → 3100

葉沙(これじゃアイツの攻撃を止めることができないじゃない。それだけでも厄介だってのに、貫通能力持ちなんて卑怯にもほどがあるっての! 今の手札じゃどうにもできないし・・・・・・次のドローでなんとかするしかないかなぁ〜)

用心棒「ターン終了」

5ターン目

葉沙LP 4000手札:2枚
なし
なし
古代の機械巨人〈表攻撃〉
人海戦術〈表側〉
用心棒LP 3100手札:1枚

葉沙「私のターン、ドロー」

葉沙(このカードは・・・)

 うなだれる葉沙。よほど悪いカードでも引いたのか、ピクリとも動こうとしない。用心棒も油断したのか、強気に発言する。

用心棒「どうした? 絶望に声も出せないか」

シルビア「葉沙・・・・・・」

 心配するシルビアだが、実は違ったのだ。葉沙はただ自分の引きの強さに忍び笑いを漏らしていただけなのだ。

 逆転という言葉が大好きな葉沙にとってこの状況は嬉しくて堪らないのだ。

葉沙「ふっふっふ! とりあえず私のターンが終わったら、そのダー○・○○ダーをパチったような格好の正体がバレるから、みんな期待してなさい」

 ギャラリーに向かって自信ありげに宣言する葉沙。盛り上がる生徒達に反応するように用心棒が叫ぶ。

用心棒「このワタシをだと・・・この〈古代の機械巨人〉を倒せるモンスターなどそうはいない」

葉沙「まあ見てれば分かるわよ。私は〈プレズント・ガールLV3〉を攻撃表示で召喚! さらに魔法カード〈レベルアップ〉を発動よ!!」

プレズント・ガールLV3魔法使い族☆☆☆
ATK 1300 / DEF 1100
このカードがフィールド上に表側表示で存在し、このカードを除くモンスターが特殊召喚に成功した時、このカードを墓地に送る事で「プレズント・ガールLV5」1体を手札またはデッキから特殊召喚する。

レベルアップ!通常魔法
フィールド上に表側表示で存在する「LV」を持つモンスター1体を墓地へ送り発動する。そのカードに記されているモンスターを、召喚条件を無視して手札またはデッキから特殊召喚する。

葉沙「デッキから〈プレズント・ガールLV5〉を特殊召喚!!」

プレズント・ガールLV5魔法使い族☆☆☆☆☆
ATK 2400 / DEF 2200
このカードがフィールド上に表側表示で存在し、このカードを除くモンスターが特殊召喚に成功した時、このカードを墓地に送る事で「プレズント・ガールLV7」1体を手札またはデッキから特殊召喚する。 指定した相手モンスターと同じレベル・種族、半分の攻撃力・守備力を持つ「コピートークン」を1体特殊召喚する。この効果は1ターンに一度メインフェイズにしか使用できない。

用心棒「!!」

葉沙「特殊効果発動! リバティ・クリエイション!!」

 〈プレズント・ガールLV5〉が手のひらを杖で軽く叩く。すると、そこから粘土のようなものが現れた。

 それをこね回していき、人形のような形になったところで、再び杖で叩く。

 すると、小さな爆発のあとで小さな〈古代の機械巨人〉が出来上がった。

用心棒「だが、まだ〈古代の機械巨人〉を倒すことなど」

葉沙「まだまだ。さらに魔法カード〈愉快なダンス〉を発動よ!」

愉快なダンス通常魔法
「プレズント・ガール」と名の付いたモンスターカードがフィールド上に存在する時のみ発動可能。ターン終了時まで相手モンスター1体のコントロールを得る。ターン終了時まで対象となったモンスターの攻撃力は元々の攻撃力の半分になる。

葉沙「さあ問題です。これで攻撃したらどうなるでしょう?」

 嬉しそうに話す葉沙。顔色は分からないものの、きっと用心棒は敗北のニ文字が浮かび、それどころではないだろう。

葉沙「みんなで総攻撃、いっけぇ〜〜〜!!」

用心棒 LP 4000 → 0

デュエル終了!!
勝者――葉沙!!

 信じなかった敗北に思わず膝をつく用心棒。

 だが、葉沙はそんなことで前言撤回するような人物ではない。用心棒の目の前まで歩み寄ると、

葉沙「ふっ! 変態さんの素顔・・・拝ませてもらうわよ♪」

 サングラスとマスクを強引に取る。しかし、あらわになった素顔は葉沙の予想を大きく外れていた。

 小さな鼻と口、黒色の瞳は光り輝き、柔らかそうな頬は思わず触ってみたくなるほどだ。ただ問題だったのは黒いローブの下であった。

 背が高く見えていたが、実は厚底ブーツを履いていた。しかもミニスカートだ。

 どう見ても小学生くらいの女の子である。

用心棒「バレちゃったか。ボクの名前は銀城明日香。お姉さん、強いね」

 呆気にとられる周りを気にせず、少女は自己紹介したのだった。



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