駅前は異様な空気が流れていた。
5ターン目
葉沙 LP 1700 手札:2枚 団結の力〈装備魔法〉〈プレズント・ガールLV5〉 プレズント・ガールLV5〈表攻撃〉 創の目の反逆龍〈表攻撃〉 なし 大和 LP 3200 手札:4枚 葉沙は〈創の目の反逆龍〉に圧倒されていた。たった1体の存在がゲームの流れすら一瞬にして奪い去ってしまったのだ。
その迫力に圧倒されたのは葉沙だけではなかった。零蘭やギャラリー、
さらには〈プレズント・ガールLV5〉が葉沙の後ろに隠れてしまう始末。
大和「貴様も慄いたようだが、容赦はしない! 〈創の目の反逆龍〉よ、お前の反逆を見せてやれ! ゴットブレイクショット!!」
〈創の目の反逆龍〉が口を大きく開いた。中から覗ける二本の長刀がクロスされており、傷口から流れる血液がその長刀をつたう。
その後、喉の奥から赤い閃光が輝き始め、口の中で集束していく。
地面に鋭い鉤爪をめり込ませ、攻撃態勢を整えた〈創の目の反逆龍〉が口に集束させたエネルギーを放出した。
〈創の目の反逆龍〉ATK 3500 VS 〈プレズント・ガールLV5〉ATK 3200
撃破!葉沙 LP 1700 → 1400
葉沙「くっ!」
まるで葉沙を試すような態度で、
大和「俺はカードを1枚伏せて、ターン終了だ」
6ターン目
葉沙(〈プレズント・ガールLV5〉がこんなに呆気なくやられるなんて・・・)
今までこれほどの危機に直面したことのない葉沙は、始めて負けるかもしれないと思った。
自分のターンであることすら忘れている葉沙を傍らで見つめるシルビアと零蘭。
二人も暗い表情を拭えないようだ。
思い浮かばないのだ。あの強力なモンスターを倒す手段があるのだろうか・・・と。
零蘭「葉沙! なにしてるアルか! カードを引くアルよ」
零蘭の一言で我に返った葉沙は慌ててデッキからカードを引く。
葉沙(普通このカードを引いたら、みんな喜んで使うんだろうけど、それでもどうしようもない気がする・・・でも、やるだけやらないと・・・足掻かないと、勝ち目なんか見えてこない)
葉沙「私は魔法カード〈強欲な壺〉の効果を発動させて、デッキからカードを2枚ドローするわ」
強欲な壺 通常魔法 自分のデッキからカードを2枚ドローする。 葉沙は当たり前のようにデッキからカードを引こうとした。
だが、ここで自分が勝てる気がしないと思った理由が判明した。
大和「この瞬間〈創の目の反逆龍〉の特殊効果が発動する。オールリフューザル!!」
〈創の目の反逆龍〉が〈強欲な壺〉を噛み砕いた。意味も分からずにその光景を見つめる葉沙。
大和「反逆する・・・それが〈創の目の反逆龍〉の行動原理だ。その効果は魔法・罠・モンスター効果が発動された場合、手札を1枚捨てることで、その効果を無効化し、破壊する」
葉沙「そんな・・・」
葉沙は自分の手札を確認した。そして理解してしまった。
自分に勝機がないことを・・・・・・
零蘭「葉沙はどうしたアルか。まだモンスターの召喚をしてないアルよ」
シルビア「きっと葉沙は悟ってしまったんどす。今の手札・・・いえ、今のデッキでは大和はんには勝てへんことを」
零蘭「やてみなければ、分からないアルよ」
ギャラリー「これは無理だろう」
周りの人間も葉沙の敗北を確信してしまったようだ。結果の分かっているデュエルなど観戦する必要はない。
ギャラリーは減っていき、残るはデュエルをしている葉沙と大和。そしてシルビアと零蘭だけの四人になってしまった。
葉沙「・・・・・・」
思わず歯を食いしばる葉沙。手札にある2枚のカードは葉沙のピンチを救ってきたカードである。
だが、あの〈創の目の反逆龍〉に対抗するだけの力を持っていなかった。
手札のカードはこうである。
スィンセリティ・ガールLV3 光 魔法使い族 ☆☆☆ ATK 1200 / DEF 1200 このカードがフィールド上に表側表示で存在し、このカードを除くモンスターが特殊召喚に成功した時、このカードを墓地に送る事で「スィンセリティ・ガールLV5」1体を手札またはデッキから特殊召喚する。
魔法の筒 通常罠 相手モンスター1体の攻撃を無効にし、相手のライフポイントにそのモンスターの攻撃力分のダメージを与える。 葉沙(ダメだな・・・〈スィンセリティ・ガールLV3〉じゃ、〈創の目の反逆龍〉に勝てない。〈魔法の筒〉もあの強力な効果の前じゃ意味なんてないし・・・あれしかないかな、こりゃ)
デッキの上に手を置こうとする葉沙。その行為は自分の敗北を認める行為、サレンダーである。
悔いはなかった。自分は精一杯デュエルした。でも勝てなかった。それは仕方のないこと。
どうしようもない状況では、なにをやっても無駄なのだ。
葉沙の手が触れようとした瞬間、思いも寄らぬ現象が起きた。
手が動かない。違う。デッキから引き離そうとする力が働いている。
葉沙は自分の腕を凝視した。そこにいたのは・・・
スィン(うんしょ、うんしょ)
まぎれもなく〈スィンセリティ・ガールLV3〉であった。赤を基調としたローブとぶかぶかの帽子、幼く可愛らしい顔と不釣合いに長い杖。
葉沙「なっ・・・なっ・・・なっ!」
葉沙の不可解な行動に眉を顰める大和。シルビアと零蘭も同様のようだ。
零蘭「なにしてるアルか?」
葉沙「なにって見て分かんないの! 〈スィンセリティ・ガール〉が私の手を引っ張ってんのよ」
零蘭「は?」
怪しい人を見るような視線になる零蘭。その一言を聞いていたシルビアはポケットからハンカチを取り出して、
シルビア「葉沙・・・負けとないからて、そんなに頑張らんでも大丈夫どすえ。ほかの手を考えますさかい」
大和「要するに貴様はなにをしたい?」
どうやらほかの人間には葉沙の腕を引っ張っている〈スィンセリティ・ガール〉の姿が見えていないらしい。
葉沙は勇気を出して話しかけてみた。
葉沙「ちょっと、なんで私の腕を引っ張るのよ」
〈スィンセリティ・ガール〉は葉沙のほうを向くと、驚いた様子で手を振ってみたりしている。
あちらも自分が見えていないと思い込んでいるらしい。
葉沙「手を振ってもしょうがないでしょ! あんた誰よ?」
スィン(私の姿・・・見えているんですか?)
葉沙「当然でしょ? じゃなかったら話しかけてないわよ」
当たり前のように威張る葉沙。
スィン(そうなんですか・・・見えているんですか。あの・・・だったら聞きたいことがあるんですけど)
遠慮深そうな態度をする〈スィンセリティ・ガール〉。
葉沙「なに?」
スィン(どうしてサレンダーしようとしたんですか? まだ戦えるじゃないですか)
葉沙「私だって勝ち目のない戦いって分かった以上、サレンダーくらいするわ。どうしようもないときがあるのよ。どうしようもないときが・・・・・・」
俯く葉沙。その光景を見ていた〈スィンセリティ・ガール〉は、
スィン(葉沙は絶対諦めないって、いつも言ってるのに・・・)
葉沙「なんですって?」
スィン(ごめんなさい、ごめんなさい。でも・・・私もお姉ちゃんたちも、そんな葉沙に惹かれたから)
涙目になる〈スィンセリティ・ガール〉。このとき葉沙は思ったのだ。さっき負けを認めようとしたのはなぜだろうと。
葉沙(私のデッキは諦めていない。なのに自分だけが負けた気になって・・・)
葉沙「コラ! 泣くんじゃないの」
スィン(・・・・・・葉沙?)
葉沙「あんたの言うとおりだと思ったわ。もし負けたとしてもリベンジできるし、やっぱり関東大会・・・諦めるなんてできっこないし」
スィン(うん)
元気を取り戻した葉沙と〈スィンセリティ・ガール〉。
状況を全く理解していないシルビア・零蘭・大和の3人だったが、大和だけは、葉沙の変化に気がついていた。
それに反応するように〈創の目の反逆龍〉が牙をむき出しにする。
葉沙「そいえば、あんたの名前ってスィンセリティ・ガールでいいわけ?」
スィン(みんなは私のことをスィンって呼びます。葉沙もそう呼んでください)
葉沙「そっ。ならスィン、私に力を貸してちょうだい」
スィン(うん)
葉沙の勝ち目のない戦いが始まった。
葉沙「私は〈スィンセリティ・ガールLV3〉を攻撃表示で召喚して、リバースカードを1枚セット。召喚やカードのセットなら〈創の目の反逆龍〉の効果は発動されないんでしょ?」
大和「勝機が見えたか・・・しかし、〈創の目の反逆龍〉に死角はないぞ」
葉沙「確かに今回は私の負けでしょうね」
あっさり負けを認める葉沙。
葉沙「でもこれは次のためよ。次にあんたを倒す時の糧になるの。だから最後までデュエルするのよ。悪いけど付き合ってもらうわ」
大和「そうか・・・ならば関東大会決勝で雌雄を決しよう。〈創の目の反逆龍〉もそれを望んでいる」