第11話 マジシャン VS マジシャン(中編)!!


○デュエルフィールド○


 会場内は初戦からヒートアップしていた。

 激戦の中、葉沙とクリアの二人は別の感情に心を支配され始めようとしているとも知らずに・・・

4ターン目

葉沙LP 2700手札:1枚
0枚
なし
ブラック・マジシャン〈攻撃表示〉
1枚
クリアLP 4000手札:3枚

葉沙「私のターン、ドロー!」

 額に汗を滲ませながら、焦りを感じる葉沙。

 それもそのはずである。

 葉沙の手札はたったの2枚。フィールドにはモンスターカードどころか、リバースカードもセットされていない。

 それに比べて、クリアのフィールドにはブラック・マジシャンが立ちふさがり、手札も3枚と、まだまだ本気を出していないのが手に取るようにわかる。

 これは圧倒的不利な状況なのだ。

葉沙(かなりヤバいかな・・・でも!!)

 葉沙はドローしたカードを確認すると、

葉沙「私は〈天使の施し〉を発動! まずはデッキから3枚ドロー。その後、手札2枚を墓地に送る」

天使の施し通常魔法
デッキからカードを3枚ドローし、その後手札からカードを2枚捨てる。

葉沙(くっそ〜! 今は耐えるだけで精一杯・・・でも、なんとか乗り切るしかない!!)

葉沙「〈見習い魔術師〉を守備表示で召喚。カードを1枚セットしてターン終了よ」

見習い魔術師魔法使い族☆☆
ATK 400 / DEF 800
このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、フィールド上で表側表示の魔力カウンターを乗せる事ができるカード1枚に魔力カウンターを1個乗せる。このカードが戦闘で破壊された場合、デッキからレベル2以下の魔法使い族モンスター1体を選択して自分フィールド上にセットする事ができる。

葉沙「って忘れちゃうとこだった」

 葉沙はデッキからカードをドローした。

 眉を顰めるクリア。

クリア「どういうつもりです?」

 クリアの一言に、葉沙は墓地に送ったカードを取り出した。

葉沙「〈天使の施し〉で墓地に送ったカードは〈探査魔道士・イクスプロー〉だったのよ。〈探査魔道士・イクスプロー〉の効果は手札かフィールドから墓地に送られた場合、ターン終了時にカードを1枚ドローできる」

探査魔道士・イクスプロー魔法使い族☆☆☆☆
ATK 500 / DEF 500
このカードがフィールドまたは手札から墓地に送られた場合、ターン終了時にデッキからカードを1枚ドローする。

クリア「・・・・・・」

 無言のままのクリア。

 しかし、その視線は明らかに敵意を感じさせてくる。

 葉沙はプレッシャーに襲われながら、再びターン終了を宣言した。

5ターン目

 葉沙に反応するかのように、デッキからカードを引くクリア。

 どうやら勝負を仕掛けるつもりらしい。

 彼の気迫が、それを物語っている。

クリア「お前との勝負は不愉快だ! すぐに決着をつけてやる。僕は〈ブラック・マジシャン〉を生贄に〈黒魔導の執行官〉を召喚!!」

黒魔導の執行官魔法使い族☆☆☆☆☆☆☆
ATK 2500 / DEF 2100
このカードは通常召喚できない。自分フィールド上に存在する「ブラック・マジシャン」1体を生け贄に捧げた場合のみ特殊召喚する事ができる。このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、お互いのプレイヤーが通常魔法カードが発動する度に、相手ライフに1000ポイントダメージを与える。

 黒いローブを纏った〈黒魔導の執行官〉は、ゆっくりと葉沙に向かって杖を構えた。

 まるでクリアの命令を待ち望んでいるかのように。

クリア「手札から〈強欲な壺〉発動! そのエフェクトにより、デッキからカードを2枚ドローする」

強欲な壺通常魔法
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

葉沙「あんた、最初から〈強欲な壺〉持ってたでしょ? なんで使わなかったのよ?」

クリア「カードは必要な時に使用する。カードの使用タイミングもプレイングの一つだ」

葉沙「ようするに出し惜しみしてたってわけ?」

クリア「そうじゃない。たとえどんなデュエリストでも、僕は全力でデュエルしている。僕が今まで〈強欲な壺〉を使わなかったのには、ちゃんとわけがある」

 笑みを浮かべるクリアに、葉沙は眉を顰めた。

 だが、その理由はすぐに判明した。

クリア「魔法カードの発動成立により、〈黒魔導の執行官〉のエフェクト発動! このカードが表側表示でいる時、魔法カードが使用されるたびに、相手プレイヤーに1000ポイントのダメージを与えることができる」

葉沙「うそ!!」

 焦りとは裏腹に、素っ頓狂な声を上げてしまう葉沙。

 ある意味、情けない表情である。

葉沙 LP 2700 → 1700

クリア「悪運がいいな。もしさっきのドローで魔法カードを2枚ドロー出来ていれば、それで終わりだったが、もう少しだけ相手をしなければいけないみたいだ」

 不愉快そうに言ってのけるクリア。

 その態度に葉沙もついに溜まっていた感情が爆発した。

葉沙「あんたね、さっきからデュエルしてれば、ぐちぐちぐちぐちと・・・うるさいのよ! だいたいシルビアの弟だかなんだか知らないけどね、あんたにシルビアのこと悪く言う資格なんかないわ! あの子の苦労なら、私が一番よく知ってるんだから!!」

 大声を出して喚く葉沙に、クリアは一瞬唖然とした表情を見せていたが、みるみる声色が変化していった。表情も怒りに満ち溢れ、感情を抑えることすら忘れているようである。

クリア「お前がなにを知っているって言うんだ! アイツは僕と母さんを見捨てたんだぞ!」

 クリアの一言に葉沙の怒りは消えうせた。言っていることがよく理解できない。

 家族を見捨てた・・・・・・?

葉沙(シルビアが、見捨てた・・・? なにそれ? どういう意味なのよ)

 ハッと我に返った葉沙だが、クリアの怒りは止まるどころか、どんどん激しいものになっていく。

クリア「あの女は・・・白鳳院シルビアは、僕と母さんを置いて、あの男と出て行った! 病気だった母さんを見捨ててな!!」

葉沙「・・・・・・」

 口を開くことすら忘れてしまっている葉沙。

クリア「僕は幼いころ、イギリスの山奥にある小さな村に住んでいた。周りは年寄りばかりの静かな村だったが、それでも嫌いじゃなかった・・・むしろ好きだったと言ってもいい。当時は母さんとシルビアと三人で暮らしていた。貧しかったけれど、そんなことは全然気にしていなかった。あの男が現れるまでは・・・・・・」

葉沙「あの男?」

クリア「白鳳院正継(はくほういん まさつぐ)・・・僕の父親だと名乗った男だ!」

葉沙「白鳳院って、シルビアの・・・」

クリア「そうだ! あの男は突然僕たちの前に現れた。母さんは喜んでいた。愛していた夫が帰ってきたんだから、当然だったのかもしれない。だが、あの男はそんな一途な母さんの思いなんか、知っちゃいなかったんだ!」

 葉沙は心の奥底で悲しさを感じていた。

 それは話の内容ではなく、クリアの苦しそうな表情を垣間見てしまったから。

 恐ろしく脆い一面に気づいてしまったから。

クリア「村のみんなからは、あの男は母さんを捨てて、出ていったのだと教えられた。でも、母さんはそんなことを、これっぽちも気にしていなかった・・・僕もどうでもいいことだと考えていた。なぜなら、僕は自分を不幸だと感じていなかったからだ!」

葉沙「自分が幸せだから、不幸って感じなかった?」

クリア「そうだ。小さな幸せだったのかもしれないが、それでも僕は満足していた。家族三人で暮らせていけばそれでいいと・・・だが、あの男はそれを!!」

 クリアの唇から赤い雫が流れ出した。

クリア「母さんは病気だった。村唯一の医者からは、かなり重い病だと聞かされていた。なのに、あの男は母さんと僕を引き離そうとした! 後継者が必要だと言ってな!!」

 白鳳院家は、鎌倉時代より代々にわたり白鳳院流古武術を伝承してきた名家である。その当時、頭首だった白鳳院正継の血を引き、

 長男でもあるクリアには、当然ながら、白鳳院流古武術を継承することが許される。

 つまり、必要でないはずの存在が必要になった・・・修行中に出会った女性に身篭らせた子供が。

クリア「クリア「僕は拒絶した。いきなり現れた父親よりも病気の母さんのほうが大切だったからだ。当然、あの男は無理やり僕を連れて行こうとしたさ。でも、村のみんなも僕に協力してくれた。しかし、あの男は自分一人ではどうしようもないと理解した途端、今度はシルビアを狙ったのさ。僕はシルビアも拒絶すると思っていた。だが、あの女は違った!!」

 クリアの怒気がさらに強まった。

 しかし、その表情はとても痛々しくて・・・

クリア「あの女は白鳳院正継と一緒に出て行ったんだ! 病気の母さんを残してな!!」

葉沙「シルビアのこと・・・恨んだ?」

クリア「いいや、きっとなにか理由があるんだと・・・そう考えた。脅されたに違いないと・・・そう思った」

葉沙「じゃあなんで・・・そんなにシルビアのことを」

クリア「シルビアは心配している母さんに、手紙の一つも寄こさなかった」

葉沙「手紙くらいのことで、そんな!!」

クリア「わかっているさ! だから僕は母さんを励ましながら、高額の薬代を手に入れるために必死に働いた。でも・・・」

 俯くクリア。葉沙はそんなクリアを見て、理解してしまった。

クリア「母さんは・・・死んだ」

葉沙「それで、どうして!!」

クリア「僕は母さんの寿命が一月もないだろうと聞かされたとき、とある場所に電話をかけた」

葉沙「シルビアの家に・・・」

クリア「そうだ。たまたま電話に出たのは、白鳳院正継だった。だから言ったのさ。最後に母さんとシルビアをやって欲しいと」

葉沙「シルビアのこと、心配してたから・・・なんだよね」

 クリアは一度だけ頷いた。そして話を続ける。

クリア「だが、あの男はそれすら拒絶した!! シルビアは忙しいからと、そう吐き捨てたんだ!!」


○観客席○


 途中から話し込み始めた両者に苛立ちを感じた観客が野次を飛ばしていた。零蘭やマリア、

 それにシルビアはその場で無言もまま座っていたが、

零蘭「葉沙はなにをしてるアルカ!」

マリア「なにか・・・話し込んでいる・・・ようにも・・・見えるけど・・・」

 二人は不思議そうにデュエルフィールドを眺めていた。

 しかし、その隣に座っているシルビアだけは、複雑な表情のまま、口を開かなかった。


○デュエルフィールド○


 葉沙とクリアの周囲には特別な空気が流れていた。

 ジャッジ山田の声や会場中からの野次でも、二人のデュエリストの会話は終わらない。

 むしろ、聞こえていないと言ったほうが正しいのかもしれない。

 今、このデュエルフィールドはカードではなく、精神の戦いになっているのだから・・・

クリア「母さんが死んで、どれぐらいか経ったころ、たまたま僕は友達の家でテレビを見ていたんだ。」

クリア「村ではデュエルモンスターズが流行りだしたころで、僕もカードこそ持っていなかったが、話はできるくらい知っていた」

葉沙「それが一体、シルビアとどう関係してるってのよ!?」

クリア「見ていたのはデュエルモンスターズ世界大会・十二歳以下の部、イギリス代表と・・・日本代表の試合だ」

葉沙「それって・・・まさか!!」

クリア「そうさ。シルビアが日本代表だった。僕はその時、シルビアの顔を目の当たりにして、心の奥底から怒りが湧き出すのを感じた!」

 クリアの右手に力が入り、わなわなと震えだす。これでも必死に抑えているつもりなのだろう。

 だが、それでも抑えきれない怒りが、皮膚に食い込み、拳の間から赤いものが溢れだす。

クリア「あの女はこともあろうに・・・母さんが死んだというのに、カードゲームでのうのうと遊んでいたのさ!」

 クリアが言わんとしていること、それは葉沙も理解できた。

クリア「だから誓った。白鳳院家を裁いてやろうと!!」

 それでも納得できなかった。

 兄弟姉妹とは、たとえ仲が悪くとも、心の奥底で憎むことなんてないと信じているから。

 目の前の少年が憎しみだけに囚われているようには感じれなかったから。

葉沙「そんな・・・」

クリア「まずはシルビアをデュエルで打ち負かす。そのあとで白鳳院正継に武道を・・・もっとも得意とするもので敗北させる! 完膚なきまでに!!」

 灰色の瞳の奥底で、どす黒く燃えたぎる復讐の炎。

 葉沙には、それがとても悲しく、虚しく感じられた。

葉沙「シルビアってさ、昔運動オンチだったの・・・知ってる?」

 突然の一言にクリアは驚いた。

クリア「そんなことは知っている! それがなんの・・・」

葉沙「私とシルビアが始めて会ったのってね、近所の公園だった。泥まみれの胴衣で、地べたで倒れてたのよ、シルビア」

 話が見えてこないクリアを他所に、葉沙は昔話を始めた。

 その声は決して大きくなかったが、それでもその声には優しさと力強さがあった。

葉沙「どうしたのって聞いてみたら、『お稽古してる』って片言の日本語で返された。でも仲良くなるのはすぐだったわ。私もシルビアに興味あったし、多分シルビアもそうだったと思う」

クリア「それがどうしたと言うんだ!!」

葉沙「落ちつきなさいって」

 怒りの静まらないクリアをなだめる葉沙。

葉沙「シルビアは毎日稽古ばっかりしてたわ。一緒に遊ぼうって言っても、いつも断られてた。その時の断り文句みたいなのがあってね・・・なんだと思う?」

クリア「僕にわかるはずがない」

葉沙「『はやく免許皆伝しないといけないから』って」

クリア「・・・・・・」

葉沙「私には昔のこと、なんにも教えてくれないけどさ、クリアの話を聞いてて思った。もしかして、シルビアは早く帰りたかったんじゃないかなって」

 黙り込んだままのクリア。

 それでも葉沙はさらに続ける。

葉沙「免許皆伝になれば、白鳳院家を継ぐことができるから・・・そうすれば、家に帰っても大丈夫になるからって」

クリア「・・・仮にそうだとしても、連絡の一つも寄こさない理由にはならない!」

葉沙「シルビアの日課ってね。毎朝、郵便受けを開けることなのよ」

クリア「なっ・・・!?」

葉沙「毎日あんな過酷な稽古やってて、お小遣いも貰ってなかったみたいだからね。手紙すら出せなかったんじゃないのかな。特にあのオヤジってそういうのに敏感だから」

 怒りを忘れて驚くクリア。

葉沙「それにデュエルモンスターズを始めようって言ったのは私だし、最初は賞金目当てだった」

クリア「賞金?」

葉沙「そうよ。なんかシルビア、お金が必要みたいなこと言ってたからさ。んじゃ、大会に出て賞金をゲットすればいいんじゃないって言ってやったのよ」

クリア「っ・・・・・・」

葉沙「薬代のことも考えてたんじゃない・・・シルビア」

 クリアは俯いたまま、動かなくなった。

 無言のままで口を開こうともしない。

 葉沙はそんなクリアを見かねた。

 デュエルディスクを構え直すと、

葉沙「頑固ね、あんた」

 ため息を吐く葉沙。

葉沙「だったら、条件を変えてあげるわ」

クリア「・・・条件?」

葉沙「もしあんたがデュエルで負けたら、シルビアと仲直りしなさい」

クリア「なんだと!」

葉沙「だってそれが手っ取り早いんだもの」

クリア「勝利条件を勝手に変えるな!?」

葉沙「過去話はあんたが勝手に話しただけよ。私はなんにもしてないわ」

クリア「屁理屈を!」

葉沙「いやならデュエルで勝つことね。わかったら、さっさとターンを進めなさい。負けないようにね♪」

 ウインクしながら、さらっと言ってのける葉沙。

 忘れていた感情を思い出したクリアは、怒りを込めて叫んだ。

クリア「なめるのも大概にしろ! 動揺したからといってデュエルの優勢が変わるわけじゃないんだ!僕はこのままバトルフェイズに突入する。〈黒魔導の執行官〉で〈見習い魔術師〉を攻撃! ブラック・ジャッジ!!」

〈黒魔導の執行官〉ATK 2500 VS 〈見習い魔術師〉DEF 800
撃破!

葉沙「〈見習い魔術師〉の効果発動! 戦闘で破壊された場合、デッキからレベル2以下の魔法使い族モンスター1体を特殊召喚できる」

葉沙「〈聖なる魔術師〉を守備表示で召喚よ」

聖なる魔術師魔法使い族
ATK 300 / DEF 400
リバース:自分の墓地から魔法カードを1枚選択する。選択したカードを自分の手札に加える。

クリア「所詮は時間稼ぎにしかならない」

葉沙「なんとでも言いなさい。次のドローに賭けることもできないヤツにデュエルなんてできっこないんだから」

 余裕を見せ始める葉沙。

 どうやらいつものペースを取り戻しているようだ。

 それに引き換え調子を狂わされたクリアは苦い顔をしている。

クリア「カードをセットしてターン終了だ」

6ターン目

葉沙LP 1700手札:0枚
1枚
聖なる魔術師〈裏側守備〉
黒魔導の執行官〈表攻撃〉
1枚
クリアLP 4000手札:3枚

葉沙「私のターン・・・ドロー!!」

 デッキのカードを素早く引き抜く葉沙。

 ドローしたカードは・・・

葉沙「さすが私のデッキよね。以心伝心ってやつかな。私は手札から〈強欲な壺〉を発動! デッキからカードを2枚ドローよ」

クリア「運のいいやつだ! だが、忘れていることがあるぞ!!」

葉沙「???」

クリア「〈黒魔導の執行官〉のエフェクト発動! 魔法カードの発動により、ライフポイントに1000ダメージを与える!!」

葉沙 LP 1700 → 700

葉沙「こっちが魔法カードを使っても効果が発動できるなんて、卑怯なモンスターね・・・でもこれじゃ止まらないわよ! リバースカードをオープン。罠カード〈ゴブリンのやりくり上手〉!!」

ゴブリンのやりくり上手通常罠
自分の墓地に存在する「ゴブリンのやりくり上手」の枚数+1枚をデッキからドローし、手札からカードを1枚選択してデッキの一番下に戻す。

葉沙「さらに〈ゴブリンのやりくり上手〉にチェーンするわ」

クリア「なに!?」

葉沙「速攻魔法〈非常食〉を発動! 対象は〈ゴブリンのやりくり上手〉よ」

非常食速攻魔法
このカードを除く自分フィールド上の魔法または罠カードを墓地へ送る。墓地へ送ったカード1枚につき、自分は1000ライフポイント回復する。

葉沙「これでチェーンした〈非常食〉の効果で〈ゴブリンのやりくり上手〉が墓地に送られた状態で〈ゴブリンのやりくり上手〉の効果が発動される。それに実は、〈天使の施し〉で〈ゴブリンのやりくり上手〉を1枚墓地に送っていたのよねぇ〜」

 不敵な笑みを浮かべる葉沙。

葉沙「とりあえず、〈非常食〉の効果でライフを1000回復させてもらうわよ」

葉沙 LP 700 → 1700

 クリアは舌打ちしながら、

クリア「くっ! ライフ回復と手札増強コンボか!!」

葉沙「ご名答♪ この効果で私はデッキからカードを3枚ドロー。そして手札を1枚、デッキに戻す」

 デッキにカードを戻しながら、葉沙は不思議そうな表情をした。クリアはなんとなく理由を把握できたらしく、

クリア「〈黒魔導の執行官〉は通常魔法に対して、そのエフェクトを発動させる。速攻魔法はその対象にはならない」

葉沙「なるほど・・・それはいいこと聞いちゃったわね」

 クリアにウインクしてみせる葉沙の顔は自信に満ちていた。

 まるで勝利を確信したかのように。

クリア「そんなことはどうでもいい。現に手札は増強できたようだが、お前のフィールドには〈黒魔導の執行官〉の攻撃力を超えるモンスターは存在しない。次のターンにお前を攻撃すれば・・・それで終わる」

葉沙「それがそうもいかないのよね」

クリア「僕にハッタリは通用しない。お前のデッキのことは調べてある。レベルモンスターを軸としたマジシャンデッキ・・・生贄を必要としないデッキだろう?」

 葉沙のデッキはレベル4以下のモンスターを中心とし、スィンなどのレベルモンスターをレベルアップさせることで上級モンスターを高速展開させるデッキである。

 レベルモンスターの効果で特殊召喚するため、生贄が必要な上級モンスターが必要ない。そのうえ、デッキからの特殊召喚が可能なため、モンスター自体をドローすることなく、デッキ圧縮もすることができるのが利点だ。

 もし仮に、上級のレベルモンスターを召喚できたとしても〈聖なる魔術師〉は、そのままフィールドに残ることになる。

 そして〈黒魔導の執行官〉の攻撃力は2500。

 おそらく、クリアはどうにかすることのできるカードがデッキに入っているのだろう。

 ゆえの一言である。

葉沙「あんた、レベルモンスターをちょっと勘違いしてるみたいね」

クリア「勘違いだと?」

葉沙「そう。か・ん・ち・が・い♪」

 人差し指を横に振りながら、葉沙は言う。

葉沙「これがその証明よ! 私は〈聖なる魔術師〉を生贄に、〈プレズント・ガールLV5〉を攻撃表示で召喚!!」

プレズント・ガールLV5魔法使い族☆☆☆☆☆
ATK 2400 / DEF 2200
このカードがフィールド上に表側表示で存在し、このカードを除くモンスターが特殊召喚に成功した時、このカードを墓地に送る事で「プレズント・ガールLV7」1体を手札またはデッキから特殊召喚する。 指定した相手モンスターと同じレベル・属性・種族、半分の攻撃力・守備力を持つ「コピートークン」を1体特殊召喚する。この効果は1ターンに一度メインフェイズにしか使用できない。

クリア「レベルモンスターを生贄召喚だと!!」

葉沙「確かにレベルモンスターはレベルアップさせていくことで強くなるモンスター。だけど、必ずしもモンスター効果で特殊召喚しなければならないなんて、どこにも書かれてないわ。もちろん、最高レベルのモンスターにはそれが条件とされているけどね」

クリア「その程度、自慢できるほどじゃない」

葉沙「驚くのはこれからよ。〈プレズント・ガールLV5〉の効果発動! リバティ・クリエイション!!」

クリア「なに!?」

 〈プレズント・ガールLV5〉はいつぞやの時のように、魔法を使って粘土を作り出すと、またこね始める。今度も歪な形の人形が出来上がり、仕上げの魔法を使用。

 見事、小さな〈黒魔導の執行官〉を作り出した。

コピートークン(未完成品)魔法使い族☆☆☆☆☆☆☆☆
ATK 1250 / DEF 1050
なし

クリア「紛い物ごときが、僕の〈黒魔導の執行官〉に勝てると思っているのか!」

葉沙「これはあくまで準備よ。あんた、私のデッキを調べたって言ったわよね?」

クリア「確かにそう言った」

葉沙「なら、私のデッキがどういう風に動くのかも知ってるわけよね」

クリア「・・・モンスターの特殊召喚・・・まさか!!」

葉沙「そのまさかよ! トークンも特殊召喚扱いされる。つまり、プレズント・ガールのレベルアップ条件を満たしたってことになるのよ!!」

クリア「そんな手段で!」

葉沙「〈プレズント・ガールLV5〉はさらなる成長と遂げて、上級魔術師になる!!」

 現れたのは一人の魔術師。

 身長こそ大きな変化はないものの、身体つきは大人の女性そのものである。表情にも幼さがなくなり、そのエメラルドグリーンの瞳からは妖艶さすら窺える。

 だが、その無邪気な点は、なんら変化していないようだ。

 自分の身長以上の大きな杖を片手でクルクル回して遊んでいる。

 杖には瞳と同じエメラルドグリーンの宝玉が埋め込まれ、光を反射して、輝いていた。

葉沙「これから真の決着ってやつ、つけようじゃない?」

 笑みを浮かべる葉沙と、苦々しい表情のクリア。

 二人の最後のターンが始まろうとしていた。



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