第12話 マジシャン VS マジシャン(後編)!!


○デュエルフィールド○


 最終局面を迎えたデュエル。

 会場もそれに合わせて静かになる。

 ライフポイントはクリアの方が上だが、流れは劣勢であったはずの葉沙が味方にしている。クリアもそれを理解しているらしく、額に汗を滲ませていた。

4ターン目

葉沙LP 1700手札:1枚
0枚
プレズント・ガールLV7〈表攻撃〉、コピートークン(未完成)〈表攻撃〉
黒魔導の執行官〈表攻撃〉
1枚
クリアLP 4000手札:3枚

黒魔導の執行官魔法使い族☆☆☆☆☆☆☆☆
ATK 2500 / DEF 2100
このカードは通常召喚できない。自分フィールド上に存在するブラック・マジシャン1体を生け贄に捧げた場合のみ特殊召喚する事ができる。このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、お互いのプレイヤーが通常魔法カードが発動する度に、相手ライフに1000ポイントダメージを与える。

コピートークン(未完成品)魔法使い族☆☆☆☆☆☆☆☆
ATK 1250 / DEF 1050
なし

クリア「攻撃力2700だと!!」

プレズント・ガールLV7魔法使い族☆☆☆☆☆☆☆
ATK 2700 / DEF 2500
このカードは通常召喚できない。「プレズント・ガールLV5」の効果でのみ特殊召喚できる。相手フィールド上の表側表示モンスターを1体指定する。指定した相手モンスターと同じレベル・属性・種族・攻撃力・守備力・効果を持つ「コピートークン」を1体特殊召喚することができる。この効果は1ターンに一度メインフェイズにしか使用できない。

葉沙「まだよ」

クリア「なに!?」

 葉沙の意味深な台詞にクリアは、さらなる焦り感じはじめた。

 このターン、葉沙はたった1枚のドローから、ここまでの不利な状況を一変させた。

 だから、これは脅しではない。

 葉沙はこのターンに決着をつけるつもりでいて、さらにそれを可能にする手札が存在しているはずだ。

葉沙「〈プレズント・ガールLV7〉の特殊効果発動! ハイリバティ・クリエイション」

クリア「くっ!」

 自分が追い込まれていくのを、その身で感じ取るクリア。コピートークン1体を作り出す〈プレズント・ガールLV5〉の特殊効果。

 間違いなく、それを超える能力を持っているであろう〈プレズント・ガールLV7〉の特殊効果は、クリアにとって脅威以外のなにものでもない。

葉沙「〈プレズント・ガールLV5〉のリバティ・クリエイションは失敗作しか生まれなかった。理由は自分以上の力を持つモンスターのコピーなんて生み出せるわけがないから。だけど、上級魔術師になった〈プレズント・ガールLV7〉なら真のコピートークンを生み出すことができる!!」

 〈プレズントガール・LV7〉がぶつぶつと呪文を唱え始めた。

 魔法陣が浮かび上がったと思うと、そこから長方形の大理石が現れる。次に〈プレズントガール・LV7〉は懐から数本の彫刻刀取り出した。

 それに息を吹きかけると、空に向かって投げた。

 クルクルと回転しながら落ちているだけの彫刻刀だったが、急に空中で停止すると、大理石めがけて飛んでいく。

 少しずつ大理石を削り取りながら、なにやら像らしきものが出来始めた。

 そして、〈黒魔導の執行官〉と瓜二つの像が完成した。

コピートークン魔法使い族☆☆☆☆☆☆☆
ATK 2500 / DEF 2100
このカードは通常召喚できない。自分フィールド上に存在する「ブラック・マジシャン」1体を生け贄に捧げた場合のみ特殊召喚する事ができる。このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、お互いのプレイヤーが通常魔法カードが発動する度に、相手ライフに1000ポイントダメージを与える。

葉沙「さらに魔法カード〈魔力砲撃〉で、そのリバースカードを破壊させてもらうわ」

魔力砲撃通常魔法
自分フィールド上に表側表示の魔法使い族モンスターが存在する時のみ発動する事ができる。フィールド上の魔法・罠カード1枚を破壊し、そのコントローラーに500ポイントダメージを与える。

クリア LP 4000 → 3500

クリア「僕のライフポイントが減った!?」」

葉沙「〈魔力砲撃〉の効果よ。この効果でリバースカードを破壊した場合、相手プレイヤーに500ポイントのダメージを与えることができる」」

葉沙 LP 1700 → 700

クリア「だが、僕のフィールドに〈黒魔導の執行官〉がいることを忘れているようだな! 〈黒魔導の執行官〉のエフェクト発動した。これでお前の残りライフは700・・・」

クリア LP 3500 → 2500

クリア「さらにライフを減らされただと!!」

葉沙「ご名答♪ 〈プレズント・ガールLV7〉は真のコピートークンを創造できるって言ったはずよ。もちろんテキストも・・・」

クリア「だが、ライフポイントは僕の方が上だ」

葉沙「確かにね。あんたのフィールドにいる〈黒魔導の執行官〉の効果でダメージは受けるけど、でもこれであんたのフィールドには、もう〈黒魔導の執行官〉だけ・・・終わりよ」

 明らかに動揺しているクリア。

 チェーン発動をしなかった所から、おそらく、さっきのリバースカードは、バトルフェイズで使用することができる罠カードだったのだろう。

 きっとそのリバースカードで逆転を図ろうとしていたに違いない。

 だが、それは破壊されてしまった。

 葉沙のフィールドにはクリアのライフポイントを0にするだけのモンスターが存在している。

 そしてクリアのフィールドには、それに耐えるだけのカードは存在していない。

 歯を食いしばりながら、首を横に振るクリア。

 彼は認めてしまうことを恐怖している。

 敗北の二文字を肯定してしまうことが・・・

葉沙「そんなに怖いの!」

 葉沙はクリアに怒鳴りつけた。

クリア「なっ! なにを言っている!!」

葉沙「私は怖いのかどうかを聞いたのよ! シルビアと直接顔合わせるのが怖いのかって!!」

クリア「そんなこと!!」

 返事する声が震えていた。

 きっと引き返すことができなくなってしまったと思い込んでいるに違いない。

葉沙「もし、怖いんだったら・・・」

 葉沙は優しい笑みを浮かべ、自分の胸に手を当てながら言った。

葉沙「私が一緒についてってあげる。それでもダメなら手を繋いであげる」

クリア「お前!?」

 驚いた表情のクリア。そこにはもう憎しみや恐怖に囚われていない少年の姿があった。左目から涙が一滴だけ、頬を伝った。

 葉沙はそれを見て、

葉沙「だから、今は大人しく負けなさい!」

クリア「!!!」

 葉沙はモンスター達に向かって叫んだ!

葉沙「まずは〈コピートークン〉1体で〈黒魔導の執行官〉に攻撃!」

 葉沙の〈コピートークン〉が〈黒魔導の執行官〉に向かって、黒い魔力弾を撃った。〈黒魔導の執行官〉もそれに対抗してブラックジャッジを放つ。

 二つの魔力がぶつかり合い、大爆発を起こした。

 両者は互いの爆発に巻き込まれ、消えていった。

〈コピートークン〉ATK 2500 VS 〈黒魔導の執行官〉ATK 2500
相殺!

葉沙「〈プレズント・ガールLV7〉のダイレクトアタック!」

 エメラルドに輝く魔力の光弾が、クリアをめがけて飛んでいく。

 魔力の弾は、着弾とともに大爆発を起こした。

クリア LP 2500 → 0

デュエル終了!!
勝者――葉沙!!

クリア「・・・」

 無言のまま膝をつくクリア。

 葉沙はゆっくりと歩み寄ると、腕を差しだした。

葉沙「立ちなさいって」

クリア「僕は・・・僕は・・・一体なんなんだ・・・」

 俯いたまま、うわ言のように小声で呟く少年の態度に腹を立てたのか、葉沙は無理やり腕を引っ張って立たせようとする。

葉沙「なにしてんのよ? ほら、行くよ?」

クリア「どこに行こうというんだ?」

葉沙「決まってるじゃない。シルビアの所よ」

クリア「なっ!?」

 俯いたままだったクリアの表情が一変した。彼はショックのあまり、自分が負けたとき、シルビアに謝りにいくということを、すっかり忘れていたのだ。

クリア「放せ! 僕はまだ!!」

 必死になって葉沙の腕を振り解くクリア。

 そして彼は、急ぎ足で会場を後にした。

 もちろん、葉沙は追いかけようとしたが、ジャッジ山田の思わぬ邪魔により、それはできなかった。

 会場は大いに盛り上がっているというのに、葉沙だけは心の奥にポッカリと穴が開いていることに不服を感じていた。


○選手専用控え室○


 1回戦を勝ち抜いたデュエリスト達は、会場内にある個別の控え室に案内される。そこには、飲食物やマッサージチェアなどの設備が存在しており、仮眠や休憩ができるようになっている。さらに会場から家が遠く、毎日が大変だと言うデュエリストのために宿泊まで可能になっているのだ。

 デュエルディスクをテーブルの上に置いた葉沙は、用意されていたソファーに埋まる様に身体を預けた。

 かろうじてクリアとの一戦に勝利したが、肉体的にも精神的にも消耗が激しかった。

 身体がピクリとも動かない。

 その上、クリアに謝らせることも出来ず、うやむやになってしまった今の状況は、葉沙の精神面をも疲労させた。

 葉沙は次の対戦相手のデュエルを見ておかなければと思いながらも、気がつけば静かに眠りについていた。

 どれくらいの時間が経過しただろうか。

 部屋のドアをノックする音で葉沙は目覚めた。

 目を擦りながら、ドアノブを握る葉沙。

 ドアの先で待っていたのは、

クリア「やっと出てきたか」

 呆れたような素振りをするクリア。

葉沙「クリア? どしたの?」

 まだ寝ぼけなまこの葉沙は、状況をよく理解できていないらしい。

クリア「時間を見てみろ」

葉沙「うそ!?」

 時計の針を見て、顔を真っ青にする葉沙。無理もない。

 葉沙は次の対戦相手のデュエルどころか、ラゴスのデュエルすら終わってしまっている。

 これでは、敵への対策ができない。

 現に葉沙は、ラゴスのデュエルを直接観たことがない。今日はその貴重なチャンスだったのだ。

クリア「まあ葉沙のことだから、こんなことだろうと思っていたが」

葉沙「今・・・なんて言った?」

 クリアの一言に喜ぶ葉沙。首を傾げるクリアを他所に、葉沙はこくこくと頷きながら笑顔を見せる。

クリア「どうせこんなことだろうと・・・」

葉沙「そこじゃなくて、その前!」

クリア「その前?」

 葉沙はクリアの目の前まで近づいていって、再び頷く。

 クリアは頬を染めて顔をそむけると、咳払いした。

クリア「別に気にする必要はない」

葉沙「ダメ! もう一回言って! もう一回!!」

クリア「そっそれより大和のデュエルはいいのか? きっと仲間達も待っているんだろう?」

 話を逸らそうとするクリア。

 普通の人ならば、どうかは定かではないが、性格が単純な葉沙には十分有効だった。

 もちろん、大和の話だったからかもしれないが・・・

葉沙「そうね。じゃあクリアも一緒に来なさい」

クリア「なんで僕が!?」

葉沙「だって私に負けたじゃない」

 腕組しながら、威張る葉沙。

クリア「それはそうだが、時間は決めていないはずだ」

葉沙「なによ、その屁理屈!」

 意外な反論をしてみせるクリアに、葉沙は少しムッとする。

クリア「僕は約束を破るとも言っていない」

葉沙「じゃあ・・・」

クリア「ちゃんと話し合うさ。ただし、近いうちに・・・だがな」

葉沙「そっ♪」

 このとき、葉沙は正直に喜んだ。

 最初はダメとも考えていたことが一歩前進した。

 それは小さな一歩だろう。

 だが、葉沙にとってそれは重要なことなのだ。

 一歩を踏み出せば、二歩目を踏み出すのは早いもの。それはだんだん歩みになり、やがて走り出す。

 よい方向へと、進むのだ。

葉沙(やっぱり仲直りが一番よね。ちょっと前進しただけだけど、きっとクリアなら大丈夫なはずだから)

クリア「僕はもう行く」

 クリアは踵を返すと、会場とは反対方向に歩き出した。

葉沙(全く・・・シャイなやつ)

クリア「葉沙」

 背中を向けたまま、葉沙に話しかけたクリア。

葉沙「なに?」

クリア「葉沙はこの僕に勝ったんだ。だから君には責任がある。この大会で優勝するという責任が・・・」

 強くて重い一言だった。勝者は敗者のために勝ち続けなければならない。

 それが敗者に対する礼儀であり、勝者の課せられる使命であるから。

葉沙「任せときなさい」

クリア「ふっ」

 自信に満ちた葉沙の返事に満足したらしく、クリアは再び歩き始めた。

 その背中は、とても大きく感じられた。

 葉沙は自分の部屋に戻ろうとした。

 そのとき、今度は反対側から声が聞こえてきた。

零蘭「葉沙〜〜〜!」

 シルビア、零蘭、マリア、明日香の面々である。

明日香「葉沙姉すごかったね。ボク、久々に感動しちゃったよ」

零蘭「葉沙にしては上出来だたヨ。途中で何度もハラハラさせられたのは、デュエルに勝たから、チャラにしておくアル」

マリア「本当に・・・いいデュエル・・・だったよ」

 皆に声をかけられて、素直に喜ぶ葉沙。

 しかし、シルビアの表情は優れない。

 葉沙はそんなシルビアに近づいていくと、

葉沙「クリアってさ、見た目より頑固でシャイな性格してるよね。」

 目を見開いて葉沙のほうを向くシルビア。

葉沙「でもさ、約束とかって守るタイプでしょ」

シルビア「あの子は昔から約束は守る子やったけど・・・」

葉沙「だったら大丈夫よ。やっぱり姉弟なんだからさ」

シルビア「葉沙・・・ほんまありがとな」

 泣き崩れたシルビアを励ますように、頭を撫でる葉沙の姿は、どこか神秘的な雰囲気を醸し出していた。


○???○


 部屋を灯すものはロウソクの小さな火だけ。

 しかし、そのロウソクは白ではなく闇に紛れる黒。まるで濁った血液のような赤黒い黒であった。

 おそらく部屋はかなりの広さなのだろう。ロウソクの火では、全体を灯しきれないようだ。

 突然、ベルが鳴った。

???「誰かおるか?」

 老人であろうかすれた男の声が部屋に響いた。

 返事は返ってこない。

 無音の静寂が部屋を支配した。

 コンコン。

 ドアをノックする音が聞こえてきた。

 老人の返事を待たずしてドアが開く。

 ロウソクを片手にもった髪の長いメイド服の少女が部屋に入ってきた。

 少女は老人の近くまで歩み寄ると、もう片方の手でバンッと部屋の壁を叩いた。

??「なにか御用でしょうか? 親方様?」

 敬う様子など微塵も見せない少女。

 しかし、老人はそれを気にする素振りもしない。

???「この前、拾ってきた娘はどうしたのじゃ?」

??「ああ〜あれでございますか。役立たずでしたので、餌にしてしまいました」

???「まったく困ったものじゃな。勝手に世話係を餌にするでない。ワシはまだ楽しんでもおらんというに・・・それにお前には、その格好も喋り方も似合わん」

 老人は軽蔑の眼差しを少女に向けた。

 少女は髪の毛を掴むと、床に叩きつけた。

 どうやらウィッグだったらしい。

??「余計なお世話だって。特別にジジイの趣味に合わせてやっただけだろ? 忠実な犬ッコロが大好きだもんな、ジジイは」

???「調子に乗るでないわ」

 老人の声色が低くなった。寒気を感じさせるほどの低い声。

 普通の人間ならば、きっと聞いただけで腰を抜かしてしまうだろう。

 しかし少女は全く動揺する気配を見せない。やれやれといった様子で両手をあげただけ。

??「まっ別にいいじゃんか。代用品なんか腐るほどあるしさ・・・そこらじゅうに」

???「ふん・・・まあよい」

???「ロストチルドレンの経過はどうじゃ?」

 よほど聞きたくない内容だったのだろうか、ロストチルドレンという一言に、舌打ちした少女。

 しかし、なにも話さないつもりもないらしい。

 仕方なしに口を開く。

??「ああ〜例の未完成品か。あれなら銀髪が面倒みてる」

???「あやつか・・・あやつは賢いからのぅ。任せておけば、問題ないじゃろうて」

??「けどよ、あの目は飼い犬の目じゃない。だから俺っちは嫌いだな」

 心底嫌そうな表情を見せる少女。

???「一人裏切る程度で臆するな。始末などすぐにできる」

 大した事ではない。そう言い放った老人。

 銀髪と呼ばれている存在が、なにをしているのか定かではない。しかし、必要ないと言い切る時点で、老人の中でどうでもいい人物であることは明白だ。

??「でも銀髪のやつに、あのカードを2枚も渡しちまったんだろ? 指輪も持ってるし」

???「かまわぬ。指輪の力は、その者自身の闇によって、その力が決定する。あやつ程度の闇など、たかが知れておるし、カードの奪取など、すぐにすむことじゃ」

??「まっジジイがいいってんならいいけどさ、でも後始末とかヤだかんな」

???「ほかにいくらでも代役はおる。安心せい」

??「あとはあの未完成品だな。報告だと、今度裏切り者のあいつとぶつけるらしいんだけど」

???「そうか・・・ならばお前も様子を見てくるといい。仮にも義姉妹なのじゃからな」

 かすれた声が部屋中に響く。笑っているのだろうか?

 判断しにくいが、おそらく老人は笑っている。愉快そうな声には喜びが満ちていた。

 その笑い声に苦い顔をする少女。

??「冗談やめてくれよ。俺っちとあんなのを義姉妹にすんな」

 少女は自分の胸元に手を入れた。そして一つのデッキと取り出す。

 さらに指にはめた指輪を舐めながら、

??「だって俺っちのほうが百倍強いんだからさ」

 少女は不敵に微笑んだ。それが滑稽だと言いたげに。



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