第15話 VSラゴス(中編)、闇のデュエルの恐怖!!


○暗黒界の大地○


5ターン目

葉沙LP 3800手札:2枚
なし
サイレンス・ガールLV7〈表攻撃〉
暗黒界の軍神 シルバ〈表攻撃〉、暗黒界の尖兵 ベージ〈表攻撃〉
暗黒界の大地〈表側表示〉
ラゴスLP 3500手札:なし

葉沙「私のターン、ドロー!」

 葉沙は自分の膝が笑っていることに気づいた。

葉沙(なんで震えてるのよ、私)

 膝を殴りつけてから、自分に強く言い聞かせる葉沙。そしてカードを墓地に送りながらデュエルを続けた。

葉沙「〈サイレンス・ガールLV7〉の特殊効果、ディスティニー・ディクレアス・ハイを発動!! あんたのフィールド魔法を破壊させてもらうわ!!」

手札1枚(手札) → 墓地

 〈サイレンス・ガールLV7〉が自分の足元をめがけて魔力弾を放った。

 しかし暗黒界の魔物達がそれを阻む。

葉沙「どういうこと!?」

ラゴス「〈暗黒界の大地〉ハ暗黒界ニ住ム者達ガイルカギリ、破壊サレナイ」

暗黒界の大地フィールド魔法
発動ターンのみ、手札の「暗黒界」名のついたモンスター1体を生贄無しで通常召喚することができる。「暗黒界」と名のついたモンスターがフィールドに存在する場合、このカードは相手のカードの効果によっては破壊されない。また、このカードが表側表時で存在する時、「暗黒界」と名のついたモンスターの攻撃力は700ポイントアップする。

葉沙(これじゃ〈暗黒界の軍神 シルバ〉を倒すことなんてできない・・・だけどモンスターは削っておかないと)

葉沙「〈サイレンス・ガールLV7〉で〈暗黒界の尖兵 ベージ〉を攻撃! サイレンス・ブラストショット!!」

〈サイレンス・ガールLV7〉ATK 2800 VS 〈暗黒界の尖兵 ベージ〉ATK 2300
撃破!

 〈暗黒界の尖兵 ベージ〉が魔力弾の中に飲み込まれて砕け散った。

ラゴス LP 3500 → 3000

 ラゴスは低く呻いた。

 あまりに突然のことで驚く葉沙。

 ラゴスはしばらく痙攣していたが、それが治まると、今度は高笑いを始めた。

 葉沙にはそれが不気味に感じられる。

 ふと足元を見ると、膝がまた笑っていた。

葉沙「・・カードをセットしてターン終了よ」

6ターン目

ラゴス「見テイテクレ、愛シイ娘」

 カードをドローしながら、独り言を呟くラゴス。

 そしておもむろにフードを脱ぎ捨てた。

 葉沙は最初、ラゴスはどんな顔をしているのだろう程度の単純な興味しか抱いていなかった。

 しかし、それが恐怖の始まりだった。

 異常な光景。

 ラゴスに表情というものは存在していなかった。

 違う。

葉沙「あっ・・・あっ・・・あっ・・・」

 顔が存在していないのだ。

 あるのは血を滴らせる白骨だけ。眼球はなく、肉と呼べるものもない。

 骨の中からベチャッと気持ちの悪い音をたてながら、ラゴスは不器用に口を動かす。

ラゴス「私ハ勝利セネバナラナイ。愛シイ娘ノタメダケニ」

葉沙(なによあれ!! あんなの人間じゃない・・・そうよ・・・私に動揺させようとしてるだけに決まってる。決まってるんだから!!)

 必死に自分に言い聞かせる葉沙。

 それでも冷静にはなれなかった。

 怖さを堪えるだけで精一杯。肩で息をするのでやっとの状態だ。

ラゴス「私ニ恐怖タル感情ハ存在シナイ。極寒ノ息吹、灼熱ノ業火、漆黒ノ深淵サエ・・・恐怖タルモノデハナイ」

 ラゴスから赤い塊が落ちた。

 葉沙は、はっきりその光景を見た。

 塊がどこから落ちたのかも。

 もう正面を向くことなどできない。

 その場に座り込んで、口から出そうになるものを両手で押さえる葉沙。

葉沙「ウッ・・・」

 座り込んでしまっている葉沙のことなどおかまいなしにラゴスは、デュエルを再開する。

ラゴス「〈強欲な壺〉ヲ発動。デッキカラカードヲ2ドロー」

強欲な壺通常魔法
デッキからカードを2枚ドローする。

ラゴス「〈死者蘇生〉ヲ発動。〈暗黒界の尖兵 ベージ〉ヲ特殊召喚」

死者蘇生通常魔法
自分または相手の墓地からモンスター1体選択する。選択したモンスターを自分のフィールドに特殊召喚する。

暗黒界の尖兵 ベージ(墓地) → フィールド

暗黒界の尖兵 ベージ
攻撃力 1600 → 2300

ラゴス「〈暗黒界の軍神 シルバ〉〈暗黒界の尖兵 ベージ〉ノ2体ヲ生贄ニ、〈暗黒界の石龍 ドバ〉ヲ召喚」

 黒の大地から現れたのは、黒岩の鱗をもつ奇怪な龍。

 前足はあるものの、後ろ足は存在しておらず、地を這っているように見える。

 〈暗黒界の石龍 ドバ〉は巨大な翼を使って宙へ舞い上がった。

ラゴス「〈暗黒界の大地〉ノ効果ニヨリ、〈暗黒界の石龍 ドバ〉ノ攻撃力ハ、3700トナル」

暗黒界の石龍 ドバ
攻撃力 3000 → 3700

 もはや冷静にデュエルできる状態でない葉沙。ラゴスはそんな葉沙の様子などまったく気にしていないらしい。

ラゴス「〈暗黒界の石龍 ドバ〉ヨ・・・儚キ存在ニ我ガ愛ノ力ヲ・・・黒岩弾!!」

 〈暗黒界の石龍 ドバ〉が口から石柱と呼べるほどの大きさの黒岩を吐き出した。

 先端が鋭く尖っており、ゆっくりと〈サイレンス・ガールLV7〉に近づいていく。

 杖から青く輝く魔力弾を放ったが、それでも威力が足りなかったらしい。

 黒岩は惨たらしく〈サイレンス・ガールLV7〉の身体を貫いた。

〈暗黒界の石龍 ドバ〉ATK 3700 VS 〈サイレンス・ガールLV7〉ATK 2800
撃破!

葉沙 LP 3800 → 2900

葉沙「そんな・・・痛っ!!」

 葉沙は突然の痛みに正気を取り戻した。

 痛みを感じる足元を凝視する。

 確かに足にケガをしていたが、それは尋常ではなかった。抉れているというか、

 欠けているというべきか、まるで初めからそこに何もなかったかのように、

 ぽっかりと抜けている。血管から大量の血液が流れ出し、服を濡らしていた。

 葉沙は自分に言い聞かせた。

 こんなものは幻だ。

 デュエルモンスターズは怪我をするような危険なゲームではない。

 不安をかき消すために、恐る恐る傷口に触れようと手を伸ばす。自分の手に血がついた。生暖かさを残した血液が腕を伝ってゆく。

 痛みと自分の血が教えてくれる。

 これが現実だと。

 ラゴスが言っていたことは事実だった。

 これが闇のデュエル・・・

 真実を知った途端、怪我の痛み以上に恐怖のほうが上回った。

 涙が零れ落ちた。

葉沙「本当に・・・怪我・・・してる? なんで! なんでよォッ!?」

 混乱した葉沙は、子供のように叫び散らした。が、現実を変えることはできない。

 そんな葉沙をどのように見ているのか、表情すら判別できない白骨の顔のラゴスは葉沙に近づいていく。

 そして顔を自分の方に向けさせると、そこにいるはずのない存在に語りかけるように捻じ曲がった愛を語る。

ラゴス「愛シイ娘ニ死ンデホシイト言ワレレバ、喜ンデ死ンデミセヨウ。愛シイ娘ノタメダケニ。何度モ! 何度モ! 何度デモ!!」

 握り拳から血を滴らせてラゴスは続けた。

ラゴス「存分ニ攻撃ヲスルガイイ。モット! モット! モットダ!」

 狂っている。

 この男は間違いなく狂っている。

 いくらデュエルが強いといえど、葉沙はただの女子高生だ。

 これをどうこうできるはずがない。

ラゴス「フハハ・・・ハァアアアハッハッハ!!」

 高らかに笑うラゴス。

 彼に痛みと呼べるものが存在しているのだろうか?

 それとも痛みすらどこかに置いてきてしまったのだろうか?

 目の前にある恐怖が葉沙を侵食していく。

葉沙「いやああああああぁぁぁぁぁぁ!!」

 限界だった。

 急いでここから脱出しなければ!

 葉沙は足を引きずりながら地を這った。

 もはや立ち上がることすらできない。

 逃げようとする葉沙の足をラゴスが踏みつけた。それも傷口を。

 あまりの激痛に泣き叫ぶ葉沙。

ラゴス「逃ゲルコトハ許サレナイ」

 ラゴスは最初に立っていた位置まで戻ると、デュエルの続きを始めた。

 もちろん葉沙にそれどころはないが、彼にそんな理屈は通用しない。

ラゴス「〈暗黒界の石龍 ドバ〉ノ特殊効果発動。戦闘デ相手モンスターヲ破壊シタ場合、墓地ニ存在スル名称「暗黒界」ヲ持ツモンスター1体ヲ特殊召喚デキル・・・〈暗黒界の武神 ゴルド〉ヲ特殊召喚スル」

暗黒界の武神 ゴルド(墓地) → フィールド

暗黒界の武神 ゴルド悪魔族☆☆☆☆☆
ATK 2300 / DEF 1400
テキスト

暗黒界の石龍 ドバ
攻撃力 2300 → 3000

ラゴス「本来、戦闘中ニ特殊召喚サレタモンスターハ、攻撃宣言ヲ行ウコトガデキル・・・ガ〈暗黒界の石龍 ドバ〉ノ効果デ特殊召喚サレタモンスターハ、コノターン攻撃ガデキナイ」

 ラゴスはカタカタとアゴを鳴らしながら、ターン終了を宣言した。

7ターン目

葉沙LP 2900手札:1枚
1枚
なし
暗黒界の石龍 ドバ〈表攻撃〉、暗黒界の武神 ゴルド〈表攻撃〉
暗黒界の大地〈表側表示〉
ラゴスLP 3000手札:なし

 葉沙は自分のターンがきたことなど理解できていなかった。

 はやくここから出たい。

 それだけを考えていた。

葉沙「怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い・・・・・・誰か助けてよ」

 泣きじゃくる葉沙。

 ラゴスはなにも言わず立ち尽くすだけ。

 その間も葉沙の足からは大量の血液が流れ続けている。

 もうダメだと思った。

 その時、救いとも呼べる声が聞こえてきた。

 葉沙のことをよく知り、いつもそばにいてくれる存在。

スィン(葉沙・・・ドローしてください・・・葉沙・・・)

葉沙「スィン?」

 葉沙は言われるままに震える手でデッキのカードをドローする。

 引いたカードは・・・

スィンセリティ・ガールLV3魔法使い族☆☆☆
ATK 1200 / DEF 1200
このカードがフィールド上に表側表示で存在し、このカードを除くモンスターが特殊召喚に成功した時、このカードを墓地に送る事で「スィンセリティ・ガールLV5」1体を手札またはデッキから特殊召喚する。

 スィンが姿を現した。

 そして葉沙を見るやいなや、かばうように前に仁王立ちしてみせる。

スィン(もう大丈夫です、葉沙)

 スィンの言葉にホッと胸を撫で下ろす。

葉沙「スィン・・・スィン・・・スィン!!」

 すがるようにスィンに近づく葉沙。

 スィンは目の前の光景を目の当たりにして、葉沙がどんな状況に追い込まれているのか理解したようだ。

 ラゴスを睨みつけながら、葉沙に話しかける。

スィン(どうして葉沙が闇のデュエルをしているんですか?)

葉沙「わかんない・・・気がついたらこんな状態で・・・私、どうしたらいいかなんて・・・」

 いつもの強気な態度はどこかへ去り、性格が180度回転したかのように弱気な葉沙。

スィン(闇のデュエルから無事に脱出するためには、デュエルに勝利するしかありません。葉沙、デュエルを続けましょう)

葉沙「でもあんなやつに勝てるわけないじゃない。あんな化け物になんかに・・・勝てっこない」

 俯く葉沙を諭すようにスィンは葉沙の頭を撫でた。

スィン(大丈夫です。葉沙は私が守りますから。これ以上は絶対に手出しさせません)

 直接触れることはできないが、それでも葉沙を落ちつかせるのには十分だった。

 スィンはウインクしてみせたあと、葉沙の手札を確認する。

 そしてモンスターの意志によるデュエルが始まった。

スィン(まずは〈天使の施し〉でカードを集めましょう。あの〈暗黒界の石龍 ドバ〉を倒すカードがないですから)

葉沙「わかった。手札から〈天使の施し〉を発動! デッキからカードを3枚ドローするわ」

天使の施し通常魔法
デッキからカードを3枚ドローし、その後手札からカードを2枚捨てる。

スィン(選ぶのはこのカードがいいと思います)

葉沙「うん。私はこの2枚を墓地に送って、〈スィンセリティ・ガールLV3〉を攻撃表示で召喚」

 勢いよく杖を構えるスィン。

葉沙「さらに・・・痛っ!」

スィン(葉沙!? 大丈夫ですか!?)

 心配そうに自分を見つめるスィンに葉沙はガッツポーズしてみせた。

葉沙「大丈夫だって。そんなことより今は!」

 スィンの影響だろうか、葉沙は冷静さを取り戻したようだ。

 目の前にいる強敵を眼に映し、若干だが瞳に力強さを感じられる。

 足にハンカチを巻きつけた。

 痛みを感じたが、それは我慢した。

 手についた血液を、着ていたTシャツで乱暴に拭き取ると、よろめきながら立ち上がる。

葉沙「魔法カード〈一時凌ぎ〉を発動! 墓地にある攻撃力1000ポイント以下のモンスター1体を特殊召喚する!!」

一時凌ぎ速攻魔法
効果・自分の墓地に存在する攻撃力1000以下のモンスター1体を特殊召喚する。エンドフェイズ時、この効果によって特殊召喚されたモンスターを墓地に送る。

探査魔道士・イクスプロー魔法使い族☆☆☆☆
ATK 500 / DEF 500
このカードがフィールドまたは手札から墓地に送られた場合、ターン終了時にデッキからカードを1枚ドローする。

探査魔道士・イクスプロー(墓地) → フィールド〈表守備〉

ラゴス「ソノモンスターヲ、イツ墓地ヘ?」

葉沙「さっき〈天使の施し〉でドローしたあと、そのまま墓地に送ったのよ。そしてモンスターの特殊召喚の成功により〈スィンセリティ・ガールLV5〉をデッキから特殊召喚よ!!」

スィンセリティ・ガールLV5魔法使い族☆☆☆☆☆
ATK 2300 / DEF 2300
このカードがフィールド上に表側表示で存在し、このカードを除くモンスターが特殊召喚に成功した時、このカードを墓地に送る事で「サイレンス・ガールLV7」1体を手札またはデッキから特殊召喚する。フィールド上に存在するカード1枚をゲームから除外する。この効果は1ターンに一度メインフェイズにしか使用できない。

スィン(葉沙、今です!!)

葉沙「いくわよ、スィン! 〈スィンセリティ・ガールLV5〉の特殊効果発動! ディメンジョン・ディバイデット!!」

 フィールドが〈暗黒界の石龍 ドバ〉を吸い込もうとする。前足の鉤爪を地面に突き刺してそれに耐える〈暗黒界の石龍 ドバ〉だが、じょじょにその巨体を支えられなくなっていく。少しずつフィールドに埋まっていく〈暗黒界の石龍 ドバ〉にスィンが駄目押しの一撃を放つ。

スィン(葉沙に邪悪なものを見せないで! ここからいなくなって!!)

 とうとう首を残して体のほぼ全体がフィールドに吸い込まれていた。

 あと少し・・・そう思った。

 だが、〈暗黒界の石龍 ドバ〉はここから予想外の力を見せる。

 二翼だったはずの翼が二つに割れて四つとなり、羽ばたき始めた。吸い込まれていたはずの巨体が現れる。足元も目がけて口から黒い岩石を吐き出した。岩石は地面に突き刺さり、それを〈暗黒界の石龍 ドバ〉が前足を使って踏み潰す。

 フィールドはそれ以降、静まり返った。

スィン(そんな・・・自力で私の魔法を打ち破った!?)

 動揺を隠せないスィン。

 それは葉沙も同じだった。今まで何度もスィンの力に助けられてきた葉沙にとって、この事実は信じられないものだ。

 ラゴスはアゴを鳴らしながら、大声で笑った。

ラゴス「〈暗黒界の石龍 ドバ〉ハ黒岩石デソノ身ヲ覆イ尽クシテイル。魔力ヲ帯ビタ黒岩石ヲ破壊スルコトナドデキハシナイ」

暗黒界の石龍 ドバドラゴン族☆☆☆☆☆☆☆☆
ATK 3000 / DEF 1800
このカードが他のカードの効果によって手札から墓地に捨てられた場合、このカードを自分フィールド上に特殊召喚する。このモンスターは相手のカードの効果では破壊されず、ゲームから除外されない。戦闘でモンスターを破壊した場合、名称「暗黒界」を持つモンスター1体を墓地から特殊召喚することができる。特殊召喚されたモンスターは、このターン攻撃することができない。

葉沙「・・・こんな化物モンスター・・・どうやって倒せばいいのよ!!」

 切り札であるスィンの能力をもってしても〈暗黒界の石龍 ドバ〉を倒すことができなかった。

 葉沙は崖っぷちに立たされたような危機感を覚える。

 どうすればいいのか?

 頭の中に逆転する手段が全く思い浮かばない。

スィン(落ちついてください葉沙。手札もないこの状況ではターン終了の宣言をするしかありません。あとは次のドローに賭けるしか)

葉沙「確かにそれしかないか・・・私はこのままターン終了するわ。この瞬間〈探査魔道士・イクスプロー〉の効果発動。デッキからカードを2枚ドローさせてもらうわ」

探査魔道士・イクスプロー(フィールド) → 墓地

ラゴス「2ドロー・・・ダト」

葉沙「〈天使の施し〉で墓地に送ったのが1回目。その時点で効果の発動が確定してる。そして2回目は魔法カード〈一時凌ぎ〉の効果で墓地に送ったとき。このカードには効果を重複しちゃいけないなんてこと書いてないから〈探査魔道士・イクスプロー〉テキストが2回発動されるのよ」

8ターン目

ラゴス「フッマアイイ。所詮ハ時間稼ギ二スギヌ。ドレダケカードヲドローシテモ変ワラナイ未来ガアルトイウ事ヲ教エテヤロウ。〈暗黒界の石龍 ドバ〉ヨ、ソノ力無キ精霊ヲ破壊シロ! 黒岩弾!!」

葉沙「させないわよ、そんなこと! リバースカードオープン〈攻撃の無力化〉!この効果で戦闘を無効にしてバトルフェイズを終了させるわ」

攻撃の無力化カウンター罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。相手モンスター1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。

ラゴス「ソレダケデ攻撃ヲ回避シタト・・・マサカ考エテナイダロウナ」

葉沙「なんですって?」

ラゴス「魔法カード〈闇からの奇襲〉ヲ発動!」

闇からの奇襲通常魔法
このカードは自分のターンのメインフェイズ2でしか使えない。自分フィールドモンスターを選択して発動する。発動後そのモンスターを攻撃可能な状態にし、現在のフェイズをバトルフェイズに戻す。

ラゴス「コノカードハ、モンスター1体ヲ選択シ、バトルヲ再開サセルコトガデキル魔法カード。私ハ〈暗黒界の石龍 ドバ〉ヲ選択スル」

葉沙「そんな!?」

 〈暗黒界の石龍 ドバ〉が、再び口から黒岩石を吐き出された。

葉沙「スィン! 逃げて!!」

 黒岩石がスィンの目の前まで迫ってきている。しかし、スィンはこれに反撃しようとはしない。

 ただ葉沙に振り返りながら、

スィン(ごめんなさい葉沙。葉沙を護るって言ったのに・・・)

 黒岩石がゆっくりとスィンの身体を貫いた。

 音はなかった。

 悲鳴も聞こえない。

 涙を溜めた瞳を向けながら、静かにスィンの身体が消えていく。

 葉沙は必死に掴もうとした。

 間に合わなかった。

 その手は空を切り、なにも掴めなかった。

〈暗黒界の石龍 ドバ〉ATK 3700 VS 〈スィンセリティ・ガールLV5〉ATK 2300
撃破!

葉沙 LP 2900 → 1500

 全身に激痛が走る。

 バキッという音とともにデュエルディスクを装着している腕が折れた。力が抜けてダラリと垂れ下がる。

 が、それ以上に精神的ショックのほうが大きかった。

 葉沙にとって、自分のケガよりも目の前で大切なスィンを失った悲しみのほうが、ケガの痛みを上回っているのだ。

葉沙「スィン・・・・・・」

ラゴス「所詮ハコノ程度カ」

 再び絶望のどん底に叩き落された葉沙を、ただ何事もなく弱者と吐き捨てる。

 おそらくもう終わりだと考えていたであろうラゴス。

葉沙「うわぁあ嗚呼あああぁぁぁぁぁぁああああああ!!!」

 悲しみのあまり、悲痛な叫び声を上げる葉沙。

 そのとき異変が起こった。

 周囲の闇が葉沙と共鳴しだした。

 すべてを引き裂くような圧迫感が葉沙を包み込み、その存在感を絶対的なものに変えてゆく。

 立つことさえ許されず、その姿を見るだけでも恐怖を感じさせる。人を飲み込むことさえ容易にできる闇ですら、今の葉沙を恐怖し、ひれ伏しているかのようだ。

 それはまるで頂点に君臨する王の姿。

 突然の出来事に混乱するラゴス。

ラゴス「ナンダト!?」


○会場○


 会場の隅で壁に背を預けながら、コーラを飲んでいた少女は、黒の空間から発せられた異様な気配を感じ取った。

??「あの野郎・・・未完成品の癖して、いっちょ前に箍を外しちまいやがった」

 飲み干したコーラの缶をそのままゴミ箱に放り投げた。

??「まっ外しただけじゃ意味なんかないけどな。あいつが使いこなせるか楽しみじゃねえか・・・銀髪」

 少女は不敵に笑いながら、黒の空間を見つめた。


○観客席○


 見守ることすらできない状況に、ますますイライラを募らせる零蘭。

 それを必死に抑えるマリアと明日香。

 その隣でシルビアは、一瞬ハッと表情を変えて手を押さえた。

 突然、指輪が光りだしたのだ。

 シルビアは指輪が光る原因を知っている。

 失われし力の解放と、目覚めた王の存在を。

シルビア(そうどす。葉沙、その力を使うて神を従える・・・そうすれば葉沙はもっと強うなれますえ)

 どうやら指輪は誰にも気づかれなかったらしい。

 ホッと胸を撫で下ろしたあと、恍惚そうな笑みを浮かべるシルビア。

シルビア(そう、もっと強うなっておくれやす・・・うちの愛しい葉沙)



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