二日前の出来事があったばかりだというにもかかわらず、会場は熱気に包まれていた。予定こそ延期されてしまったものの、準決勝第二試合は他のアクシデントに見舞われることなく行われようとしている。
噂では因縁の対決だとか、事実上の決勝戦などと囁かれるなどの話題もあるくらいだ。
その一人は艶やかな赤の着物を羽織る少女、白鳳院・シルビア・ランフォード。
そしてもう一人は多くのデュエリストから反逆の大和と畏怖される男、天堂大和である。
選手の入場はすでに完了しており、二人は向かい合うようにしてデュエル開始の合図を待っている状態だ。
ジャッジ山田が細かいルールの説明をしている最中、二人はお互いに聞こえる程度の声で話をしていた。
シルビア「去年の決勝みたいどすな」
懐かしそうに会場を見渡すシルビア。
大和「そうだな」
大和もそれに同意した。
去年はこの場に立った瞬間、電話での知らせがやってきたのだ。結果的に決勝を辞退する形になった大和には、この空気がとても重く感じられる。
シルビア「あのときつけられへんかった決着・・・」
大和「つけなければならない」
短い会話だが、お互いの闘志を確認するには十分だった。
一瞬ではあったが、二人の視線が鋭いものになる。
百戦錬磨の戦士のみが持ちえるその威圧感が反発しあいながら周囲を支配していく。
ジャッジ山田「大変長らくお待たせいたしました! 関東大会?準決勝第2試合、白鳳院・シルビア・ランフォードVS天堂大和のデュエルを開始したいと思います!!」
ジャッジ山田の宣言のあと、デュエル開始のゴングが鳴らされた。
シルビア&大和「デュエル!」
葉沙はテレビの画面上に映るシルビアと大和をぼんやり眺めていた。いつもなら胸躍らせながらポップコーンでも頬張っているだろう。
が、今はとてもデュエル観戦などする気分などなれない。自分のデッキからカードを1枚取り出して、そのカードを眺める葉沙。
そのカードは・・・・・・
スィンセリティ・ガールLV3 光 魔法使い族 ☆☆☆ ATK 1200 / DEF 1200 このカードがフィールド上に表側表示で存在し、このカードを除くモンスターが特殊召喚に成功した時、このカードを墓地に送る事で「スィンセリティ・ガールLV5」1体を手札またはデッキから特殊召喚する。 葉沙「ねぇ」
返事は返ってこない。
カードはただ葉沙の手の中で存在するだけ。
葉沙「全然返事もしてくれないし・・・一体なんなのよ」
葉沙が目を覚まして以来、スィンは一度も葉沙の前に姿を現していない。葉沙は何度も呼びかけたのだが、全く反応がなかった。丸一日もである。
心配ではあるが、今の葉沙には声をかけることしかできない。
深くため息を吐いたあと、デッキにスィンを戻す。
なにもしたくない。
やる気が全く起きない。
葉沙「これが噂に聞く無気力ってやつかぁ〜初めてなってわかったけど・・・こりゃ本当にどうしようもないかな」
葉沙は今までやりたいことは好きなようにしてきた。自分の中で必ずやりたいことがあって、支障がない程度で楽しんだ。所詮は趣味であり、気まぐれに初めるのだから当たり前である。不満なことがあればやめばいい。やめたらやめたで、次に興味を持ったものに手を伸ばせばいいのだ。この世の中、多種多彩な遊びが存在するのだから。
本当にそれだけだった。
だからこそ、困ることも悩むこともなかったのだ。
確かにデュエルモンスターズは、趣味の中では長く続いているほうである。
だがそれも楽しいという前提での話しだ。わざわざ苦しい思いをしてまでデュエルをする必要などない。
葉沙「はあ・・・・・・」
葉沙はベッドの横に置いてある新聞紙の存在に気づいた。
葉沙(世間の話題でも調べておくかな・・・話についていけなかったらアホみたいだし)
気分転換程度の考えで新聞紙に手を伸ばす葉沙。そこには有名芸能人の破局やら新世代ゲーム機の欠陥などの記事が掲載されていた。葉沙としてはもっと気分が明るくなるような記事を期待していたのだが、世の中そう甘くはないようだ。
さらに目を通していくと、デュエルモンスターズ関東大会の記事も掲載されていることに気づいた。嫌な予感もしたが、勇気を振り絞って記事の内容を読み始める葉沙。そこには決勝戦出場を果たした葉沙のデュエル内容が書かれていた。
しかし、その内容についてはとんでもないことだらけだった。
序盤の接戦に関しては事実であったが、〈暗黒界の大地〉発動後のデュエル経過については嘘ばかり。ラゴスの猛攻から葉沙の逆転劇までが事細かに説明されているものの、真実にはほど遠い内容であった。
葉沙「なによこれ・・・なんでこんな!?」
どうして嘘の記事が掲載されているのか?
理由は決まっている。
真実を公にできないからだ。
つまり葉沙とラゴスの闇のデュエルは事実であり、命の賭けた戦いを繰り広げたことになる。
それではラゴスはどうなった?
まさか本当に・・・・・・?
行き着いた先の答えに葉沙は恐怖した。
身体の震えを片腕で押さえつけながら、目の前の新聞紙を投げ捨てた。
葉沙「きっと夢よね。みんなだって言ってたじゃない、ラゴスは病院に運ばれたって・・・こんなの嘘に決まってる!!」
今を夢だと願い、目を覚ますためにもう一度寝ることにした葉沙。
だが眠ることなどできるはずもない。
焦りながらベッドに身を任せてまぶたを閉じようとしる葉沙。
しかし、ドアのノックがそれを邪魔する。
無視してやり過ごそうとも考えたが、知り合いだったら気が引けるので、結局返事をしてしまった。
葉沙「どうぞ」
入ってきたのは女性だった。
肩に届く程度のショートカットの髪がふわりと舞い、しわ一つないデュエルセンターの制服を着こなし、首に巻いたスカーフがとてもよく似合っている。
軽い口調で現れたその人物・・・その名も・・・
紅「はぁい♪」
悠木紅である。
葉沙「紅姉!?」
突然の来訪者に驚く葉沙。
一方、紅はそんな葉沙の様子など意に返さず、手短にあったイスをベッドの近くまで動かすと、ニコニコ笑顔を見せながら腰を下ろした。
紅「お久しぶりねん、葉沙ちゃん。最近、遊びに来てくれないから、お姉さん話し相手に困っちゃってたのよん」
葉沙「うん・・・ごめん」
紅「あら、葉沙ちゃんにしてはやけに素直じゃない?」
葉沙「私だって悪いと思ったら、ちゃんと謝るってば」
紅「それはそうよねん。お姉さんが悪かったわ・・・それより次はいよいよ決勝戦よねん」
葉沙「うん」
力なく返事する葉沙。
紅「葉沙ちゃんはどちらとデュエルできるか楽しみじゃないのん? シルビアちゃんか大和君か?」
葉沙は黙ったまま、俯いた。
今の自分にとって誰が勝利しようと、優勝しようとかまいはしない。
葉沙(どうでもいいじゃない・・・そんなこと)
デュエルに興味を無くしかけている葉沙の考えを知ってか知らずか、紅は急に押し黙ると、葉沙を自分に引き寄せた。
目をパチクリさせながら動揺する葉沙。
そんな葉沙の頭を優しく撫でながら紅は、
紅「葉沙ちゃん、何かあったの?」
葉沙「別に・・・なにも・・・」
紅「お姉さんに嘘言ってもバレちゃうことくらいわかってると思ってたんだけど」
葉沙は紅と目を合わせないように視線を逸らした。
まともに目を合わせようものなら、泣いてしまうかもしれないと思ったからだ。
葉沙は他人が呆れるくらいの強気な性格である。
ゆえに家族や友の前であったとしても、絶対に弱音を吐きはしない。
さらに言えば、苦しむ自分の姿を隠し通そうとさえする。バレさえしなければ心配されることもなく、周りに迷惑をかけることもないからだ。
葉沙は今までずっとそうして苦しいことを乗り越えてきた。相談できなかったわけでもないが、そうしたほうが強くなれるのではないかと考えていたからだ。
しかし、今回の事情は少し違う。
自分では隠しきれないほどの心境に追い込まれているにもかかわらず、誰かに相談して解決できるほど単純なものでもない。むしろ関われば、命の危険性すらあるのだ。口に出せるはずがない。
紅「やっぱり葉沙ちゃんは頑固よねん。そう簡単には話さないか・・・」
葉沙「ごめん」
紅「いいのよん。お姉さんは大人だから、そこらへんの融通くらい聞くわ。だけど・・・」
葉沙「だけど?」
紅「かわいい妹分が悩みを抱えてるのに、なにもしないわけにはいかないのよねん」
紅はハンドバックの中から2枚のカードを裏向きのまま取り出して葉沙の前に置いた。
紅「葉沙ちゃん、好きなほうを1枚選ぶのよん。本当は2枚ともあげちゃっていいんだけど、それだと強くなりすぎちゃうからダメダメってことで」
葉沙は少しガッカリしてしまった。今欲しいのは役立つカードではなく、心強い味方だったからだ。だからといって紅の好意を無駄にするわけにもいかない。きっと彼女なりに葉沙を心配しての行動に違いないからだ。
葉沙はそんな紅の優しさに心を打たれた。
流れそうになった涙を、あくびで誤魔化しながら、2枚のカードに触れてみる。
右のカードから不思議な温かさを感じた。
左のカードにも似たような感覚があったが、右のカードの方が自分を想ってくれている気がする。
葉沙「う〜ん、こっちかな」
迷うことなく右のカードを表にした葉沙。
どうやら魔法カードのようだ。
しかも装備魔法カードである。
なんの変哲もない絵柄なのだが、妙な安心感を与えてくれる。
紅「そのカードはねん、インテリジェントアーティファクトって言って、と〜っても特別なカードなのよん」
葉沙「インテリジェント・・・なに?」
紅「アーティファクトよん。きっと葉沙ちゃんの心強い味方になってくれるはずだわん」
葉沙「実際に・・・か・・・」
葉沙はそのカードをデッキに加えてシャッフルすると、初手の5枚をドローする。
だがそこにスィンの姿はなかった。
シルビア LP 2500 手札:4枚 天空の聖域〈表側表示〉 神聖なる球体〈表守備〉×3 スィール・ドラゴン〈表攻撃〉 1枚 大和 LP 4000 手札:3枚 シルビアの先攻で始まったこのデュエル。
一見すると、ライフポイントが減っていない大和が有利にも見えるが、実際は違う。シルビアはモンスター効果を使用するためにライフポイントを支払っただけであり、大和からのダメージは受けていない。しかも大和のフィールドには〈スィール・ドラゴン〉が1体だけに対して、シルビアのフィールドには生贄要員の〈神聖なる球体〉が3体並んでいる。その上、フィールド魔法〈天空の聖域〉の効果で天使族が戦闘で破壊されてもダメージを受けることはない。いくらカウンター罠にチェーンを乗せることができるのがカウンター罠しかないと言っても、カードを伏せる前に発動されている効果を止めることはできないのだ。
シルビア「今日のうちは、ほんまに運がええみたやね」
シルビアはドローしたカードを見て呟いた。
大和「どういう意味だ?」
シルビア「うちもいろいろ考えたんよ。反逆龍をフィールドに出さへんようにするための手段を」
大和「不可能だな」
シルビア「それは大和はんがカウンター罠で守ってはるからやろ? 相手の行動を妨害するだけでなく、自分のキーカードを守る・・・大和はんのデッキは攻守一体どすからなぁ」
大和「理解しているのならば、言う必要はないな・・・〈創の目の反逆龍〉を倒すことなど不可能ということだ」
シルビア「うちは倒すなんて一言も言ってませんえ」
大和「??」
シルビア「今から見せてあげますから、ちゃんと驚いてくださいね・・・せやないと、うちは勝った気ぃしませんから」
大和「口だけならば、なんとでも言える」
シルビア「その通りどすな。ほな、いかせていただきますえ」
シルビアはドローしたカードをそのままデュエルディスクにセットした。
シルビア「魔法カード〈闇の指名者〉を発動させますえ」
闇の指名者 通常魔法 モンスターカード名を1つ宣言する。宣言したカードが相手のデッキにある場合、そのカード1枚を相手の手札に加える。 大和「〈闇の指名者〉だと?」
シルビア「この魔法カードはカード1枚を名称で指定したあと、相手プレイヤーのデッキに眠っていた場合、そのカードを手札に加えさせるカードどす」
大和「そんなことは知っている」
シルビア「ならお話は早う済みますなぁ。もちろん、うちが指名するんは・・・〈創の目の反逆龍〉どす」
大和「なにを考えている・・・白鳳院・シルビア・ランフォード!!」
シルビア「なんやと思います?」
戸惑う大和を満足そうに見つめるシルビア。
それもそのはず。
召喚条件こそ厳しいものの〈創の目の反逆龍〉は召喚さえしてしまえば、まず破壊されないだけのポテンシャルを有している。ゆえに他のデュエリスト達に懸念され、対策を考えられ続けてきたのだ。
それをわざわざ相手の手札に送ることなど普通はしない。
相手の手札に切札があるということは、すぐに逆転できるだけの戦力を有していることになってしまうからである。
大和はデッキから〈創の目の反逆龍〉を抜き出すと、シルビアに確認させ、手札に加えた。
デッキをカットしたあと、デュエルディスクにセットする。
シルビア「気に入らないと言いたげみたいどすな」
厳しい表情の大和を満足そうに見つめるシルビア。
大和「理解できない行動が気になるだけだ。それに・・・」
シルビア「それに?」
大和「俺を倒すために前もって準備してきたのだろう? ならば俺のことなど気にする必要はない」
シルビア「そういう考え方もありどすな。でも折角やし、もったいぶったほうが面白うありません?」
大和「俺は楽しむためにデュエルをしているわけではない。そういうやり方は好まん」
シルビア「そうどすか・・・ほな、続きをしましょうか」
葉沙の見舞いを一時中断させられた紅は、駐車場のゴミ掃除をしていた。上司に仕事をサボっていることがバレたためである。口の達者な紅は、いつものようにはぐらかそうとしたが、うまくいかなかった。
結局、首根っこ掴まれて救護室からここまで連行されたあげく、このだだっ広い駐車場の清掃を一人でやるようにとの罰を受けたのだ。
掃除セットを装備して、しぶしぶゴミ拾いをする紅。
紅「まさかこんなことになっちゃうなんて・・・私もまだまだねん」
ゴミはあちらこちらに散乱しており、とてもじゃないが一人では手が回らない。
というか掃除しているこちらの目の前でゴミを捨てられると、さすがに怒りを覚えてしまう。どうせ掃除してるんなら、ついでにやれよとか言われているみたいだからだ。
普段なら真っ先に相手を殴り倒しているであろう紅だが、ここは大人だからと自身をなだめて続きを始めた。
会場の外にも巨大スクリーンが存在しており、デュエルを観戦することはできる。
ようは要領さえ問題なければ、たとえスクリーンに釘付けになっても問題ないわけだ。
紅「こんな美人に掃除をさせるなんて、ひどい上司よねん・・・おかげさまで肩こっちゃったわん」
紅の隣に黒いワゴンRが近づいてきた。
こんな時間帯に観戦しにくるのも珍しいが、紅がそんなことを気にする必要はない。何事もなかったかのように掃除を再開する。
が、ワゴンRは紅のすぐ横で停車した。もちろんその場所は駐車できる所ではない。
それでも紅は無視して掃除を続ける。ゴミに釣られるかのように移動していく紅。そしてそれについていくワゴンR。
紅(どこのどなたかしらん・・・覚えがありすぎて見当もつかないわん)
このワゴンRは明らかに紅を追っている。
紅はそのままガードレールの近くにある木陰まで移動したあと、パッと物陰に隠れた。さすがにこの先には車で侵入することができない。
姿を消した紅を探すために車から女性がでてきた。
太陽光を反射させて輝く金髪の髪にスッとした高い鼻、目はサングラスをしていてよくわからないが、外人であることは明白だ。胸を張っているせいか、見た目の身長も高いように感じる。その女性は薄茶色のスーツをラフに着こなしておりおり、どちらかと言えば、道に迷った観光客にも見えなくはなかった。
???「いつまで隠れている気だ?」
女性は紅の隠れたほうに向かって声をかけた。すると、野生の小動物のように紅がヒョコッと顔を出す。
どうやら知り合いだったのようだ。
紅「あらあらあららん。お久しぶりねん、レオナ」
レオナと呼ばれた女性は呆れた様子で紅に近づいていった。
レオナ「わけのわからない喋り方はやめろ。日本語は標準語しか理解できない」
紅「どうせいつものことじゃないのん。それに人間はなんでもすぐ慣れちゃうんだから」
レオナ「私にまで強要するな!」
紅「相変わらず硬い性格なのねん」
レオナはやれやれといった感じで溜息を吐くと、柔らかかった表情を厳しいものに変えた。
レオナ「さっそくで悪いが本題に入らせてもらう。やつらが動き始めたというのは本当か?」
紅「ええ、本当。ターゲットに対して行動を起こし始めたわよん。詳しい詳細はこれで♪」
紅は胸ポケットからMOを取り出すと、レオナに手渡した。レオナはそれをすぐに懐にしまい込んだあと、話を再開する。
レオナ「これはあとで確認させてもらうが、簡単な詳細だけは説明してもらいたい」
紅「正直に言っちゃうと、あいつらがなにをしたいのか・・・さっぱりわからないわねん」
レオナ「それでは意味がない」
紅「そう怒らないでよん。なにが起こったかはちゃんと記録してるんだから、あとはリーダー次第ってことになるでしょ?」
レオナ「確かにそうだが・・・」
紅「なら、気にしちゃダメダメってことで♪」
レオナ「全く・・・紅はいつもそうだな」
呆れているレオナを尻目に紅は満面の笑みを浮かべた。内容は重要なことに聞こえるが、二人にとっては友達との会話を楽しんでいるように見える。
レオナ「話がそれてしまうが、デュエルはしているんだろうな? 任務の際に支障をきたすからな」
レオナは紅を心配しているようだった。
本来、ゲームであるデュエルモンスターズだが、彼女達にとっては違うようである。それは会話内容でも理解できたと思うが・・・
そんなレオナに対して、紅はゆとりのある笑顔を見せたあと、こう言った。
紅「あげちゃったわん」
平然と爆弾発言を吐き出した紅に、レオナは驚きの表情を隠せない。
レオナ「なっ!? 一体誰にだ?」
紅「ターゲットに」
レオナ「バカな!? ターゲットにあのカードを渡したのか? あれは我々の切札なんだぞ!!」
紅「それはそうだけどん・・・私にはもう1枚あるし」
紅は特別なことをしたつもりはないらしい。首を傾げるその姿がまさしくそれを証明している。
レオナは今日何度目かの溜息を吐くと、
レオナ「紅が最良だと判断して、カードを渡したというのならば、文句は言わない」
紅「あらら、意外な答えが返ってきたわねん。てっきり『冗談を言ってないで取り返して来い』とか言われちゃうと思ってたのにん」
レオナ「そんなことはない。しかし・・・」
レオナの声色が変わった。
レオナ「もしその少女がヤツらに堕ちるようなことがあれば」
紅「あれば?」
レオナ「そのときは私がカードを取り戻す。徹底的にデュエルで敗北させてな」
紅「責任くらい自分で取れるわよん」
レオナ「紅は情に流されるからな」
紅「そう・・・でもきっと大丈夫よん」
レオナ「なにがだ?」
紅「あの子はきっと・・・」
レオナ「根拠のない自信は危険だ」
叱咤するレオナ。
しかし紅はそれすら問題ないと言う。
まるで信頼しあっているかのようだ。
紅「だってあの子は、とんでもないほど真っ直ぐで正直なんですものん」
レオナ「ふっ・・・ならば好きにすればいい。公言した以上、あとで私に責任を押し付けるなよ」
紅「もちろんよん。もしものときは・・・ちゃんと私が・・・・・・」
事態は一人の少女の手に委ねられた。
待っているのは目指した逆襲か、はてまた臨まれた脅威なのか。
さまざまな思惑が交錯する現状に対して、運命を握る少女は苦しみ、足掻きながら、答えに向かって歩き出すことしかできない。立ちはだかる壁すら見えない未来は、少女の心を引き裂いていくだけ。
全ては少女の思いのままに。
運命は少女の手の中で・・・