3ターン目
シルビア LP 2500 手札:4 天空の聖域〈表側〉 神聖なる球体〈表守備〉×3 スィール・ドラゴン〈表攻撃〉 1枚 大和 LP 4000 手札:4
神聖なる球体 光 天使族 2 ATK 500 / DEF 500 聖なる輝きに包まれた天使の魂。その美しい姿を見た者は、願い事がかなうと言われている。
スィール・ドラゴン 光 ドラゴン族 6 ATK 2300 / DEF 2000 自分フィールド上のモンスター1体を生贄に捧げることで特殊召喚することができる。
天空の聖域 フィールド魔法 天使族モンスターの戦闘によって発生する天使族モンスターのコントローラーへの戦闘ダメージは0になる。 シルビア「うちは、さらに魔法カード〈異次元の指名者〉を発動させますえ」
異次元の指名者 通常魔法 カード名を1つ宣言する。相手の手札を確認し、宣言したカードが相手の手札に存在する場合、そのカード1枚をゲームから除外する。宣言したカードが相手の手札に存在しなかった場合、自分の手札をランダムに1枚ゲームから除外する。 ジャッジ山田が、観客が、一斉に驚いた。〈創の目の反逆龍〉を倒すのではなく、存在自体を消してしまおうとするこのコンボに。
初めてデュエルするデュエリストには仕掛けにくいコンボだが、大和ほど有名でデッキコンセプトがはっきりしていれば、話は違う。
まず〈闇の指名者〉で手札に〈創の目の反逆龍〉を加えさせる。すでに〈創の目の反逆龍〉が手札にあった場合でもデッキを確認することができるので、無駄な行動にはならない。
次に〈異次元の指名者〉で手札を指定する。カード名は〈闇の指名者〉を発動した時点で把握しているので間違えることはまずない。〈マインドクラッシュ〉などでも十分ではないかとも思えるが、墓地ならば〈死者転生〉などで回収ができる上、ほかのカードの発動コストにもなりかねない。相手の手札を確認できるというメリットも大きい。
確実に使用不能にさせるためにシルビアが考え出した最良の手段。
シルビア「アドバンテージ消費が激しいどすけど、反逆龍を厄介払いできるんやったら、お安いもんやろ」
ジャッジ山田「これは凄いぞ! 白鳳院・シルビア・ランフォード! 反逆の大和の切り札である〈創の目の反逆龍〉に戦わずして勝利したああああああ!!」
盛り上がる会場の観客。
自信を内に秘めて微笑むシルビア。
しかし、追い込まれていると思われた大和は、それを感じさせないほど冷静だった。
その表情には〈創の目の反逆龍〉を失った動揺など微塵も感じさせないだけの気迫がある。
大和は吐き捨てた。
大和「なにをしている? もうターン終了か?」
シルビア「あらあら、怒ってはるんやったらほんまにすいません。つい周りの雰囲気に流されてしまいましたわ。ほな続きをさせてもらいますえ。〈神聖なる球体〉を生贄に〈パーシアス〉を召喚しますえ」
天空騎士パーシアス 光 天使族 5 ATK 1900 / DEF 1400 守備表示モンスター攻撃時、その守備力を攻撃力が超えていれば、その数値だけ相手に戦闘ダメージを与える。また、このカードが相手プレイヤーに戦闘ダメージを与えた時、自分はカードを1枚ドローする。 シルビア「さらに魔法カード〈天空の雷〉を発動! この魔法カードはフィールド魔法〈天空の聖域〉が発動している時のみ、発動可能になる魔法カードどす。フィールド上のモンスター1体を破壊して、相手プレイヤーに1000ポイントのライフダメージとして与えることができるんどすえ」
天空の雷 通常魔法 フィールド上に「天空の聖域」が存在する場合に発動する事ができる。フィールド上のモンスター1体を破壊し、相手プレイヤーに1000ポイントダメージを与える。 激しい音を立てながら白い雷が〈天空の聖域〉の周囲を覆っていく。
シルビア「〈スィール・ドラゴン〉を破壊させてもらいますえ」
白い雷が閃光を走らせたその刹那。〈スィール・ドラゴン〉を打ち抜いた。
スィール・ドラゴン(フィールド) → 墓地
大和 LP 4000 → 3000
シルビア「2体の〈神聖なる球体〉を攻撃表示に変更して」
神聖なる魂×2
形式 守備表示 → 攻撃表示シルビア「3体のモンスターで攻撃させてもらいますえ!!」
天使達が一斉に大和をめがけて突撃していく。大和は身構えながらそれに耐えた。
大和「クッ!!」
大和 LP 3000 → 100
シルビア「〈天空騎士パーシアス〉の効果で、デッキからカードを1枚ドローさせてもらいますえ」
ジャッジ山田「おおっと、白鳳院・シルビアランフォードの怒涛の攻撃に天堂大和もなすすべ無しか!!」
今までに見たことのない光景に観客はまばたき一つできない状況に陥った。
ここまで追い込まれた反逆の大和を見たのが初めてだったからだ。いつも相手の行動を予測し、カウンター罠でそれを無力化する。魔法・罠はおろか、モンスターさえも。
しかし、今の状況はそれが覆されている。
皆が困惑と期待が入り混じった感情に支配された。
大和が大地にひれ伏すか否かを想像して・・・
紅が帰ってからも、葉沙はデュエルを見ようとはせず、無為に時間を過ごしていた。結局眠ることも出来ず、やっていることといえば文字通り天井のシミを数えているだけ。
葉沙「本当にどうしたらいいのよ・・・私は」
何かを呟いても、返ってくるはずの返事はこない。
孤独に耐えながら、葉沙は・・・
クリア「なにをボーっとしている?」
突然の一言にビックリしてしまう葉沙。
振り向けば、そこにはクリアの姿があった。
葉沙「いつの間に入ったのよ! しかもレディの部屋に無断で入るなんて!!」
クリア「僕はちゃんとノックしたぞ。それに返事をしなかったのは君じゃないか。文句を言われる筋合いはない」
葉沙「そっか・・・ごめん」
葉沙の謝罪に驚くクリア。
クリア「どうかしたのか? 部屋に入ったときから思っていたが、今日の君は変だぞ」
葉沙「そんなことないわよ」
クリア「いいや、僕はてっきりテレビでデュエルを見ているから、ノックに気づかないだけだと思っていたが、実際はそうじゃなかった。それがすでに君らしくない」
葉沙「ふざけたこと言わないでよ!!」
クリア「ふざけているつもりなど・・・」
クリアの声を遮りならが、葉沙は大声で叫んでいた。
葉沙「知ったかぶりするなって言ってるのよ! 私のことなんて何にも知らないくせして!!」
葉沙はクリアの胸倉を掴んで必死に叫んだ。
クリアは葉沙のことをよく知らない。それはつい最近知り合ったばかりだし、ゆっくり話をする時間もなかったからだ。
もちろん、それが悪いというわけではない。とはいえ、勝手に干渉されるのは、気に入らない・・・いや、許せない。
追い込まれている状況を知らないまま・・・そんなことは。
怒りを露わにする葉沙を目の前に、クリアは反論することはしなかった。
ただ冷静な表情で、
クリア「確かに僕は君の事をよく知らない。この大会で初めて出会ったからな。だが、デュエリストとしての琴木葉沙のことは知っているつもりだ」
と、真面目に答えた。
さらに続けるクリア。
クリア「考え無しに突っ走って、自分の信じるままに行動する。愚かとも思えるほど真っ直ぐなデュエリスト・・・それが君だと、僕はそう思っている」
きっと本心からの台詞なのだろう。
そこに嘘や冗談のような悪意は感じられない。
葉沙の指から力が抜けていく。
葉沙「なによ・・・それ・・・」
嗚咽のような声で弱弱しく口を開く葉沙。
それはクリアにとって想像のつかない姿だった。強気な少女という印象しかもっていなかったクリアとしては驚いても仕方がない。
葉沙「卑怯よ。みんなして私のこと心配そうな顔してさ・・・その上、優しい言葉をかけたり、私らしくないとか言ってきて・・・私だって一生懸命隠そうとしてるんだから、気づかない振りしてればいいじゃない!! そういうふうにされると・・・・・・余計に辛くなっちゃうじゃないのよ!!」
とうとう葉沙も限界を超えた。
訳も分からず混乱しているクリアに縋りつくと、子供のように泣きじゃくった。
周りなど気にすることなく思いっきり泣いた。
クリアは黙ってそのままでいてくれた。
別に何かしてくれたわけでもないが、クリアから聞こえてくる心臓の音が妙に心地よく感じられる。
二人はしばらくの間、そのまま動かなかった。
シルビアはカードを1枚セットしてターン終了宣言をした。
シルビアは勝利を確信している。それもそのはず。公式大会では棄権以外の負け無し。実質上無敗の大和これだけ追い込んでいるのだ。
誰もが大和の敗北を疑わなかった。
絶体絶命の大和。
しかし、ここから脅威が起きる。
シルビアが油断しなければ、結果は変わらなかったかもしれない。しかし、覚悟をした人間の強さは、通常の時とは比べ物にならないほどなのだ。
だからこそ皆が改めて知らされることになる。
反逆という言葉の意味を・・・・・・
4ターン目
大和「俺のターン、ドロー・・・魔法カード〈ドラゴン族の意地〉を発動! 手札に存在する任意のドラゴン族モンスターを墓地に送り、送った枚数だけデッキからドローできる」
ドラゴン族の意地 通常魔法 自分の手札にある任意のドラゴン族モンスターを墓地に送る。墓地に送った枚数分のカードをドローする。 大和は三枚のカードを墓地に送った。
ミラージュ・ドラゴン 光 ドラゴン族 4 ATK 1600 / DEF 600 このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、相手はバトルフェイズに罠カードを発動する事はできない。 スィール・ドラゴン×2(手札) → 墓地
ミラージュ・ドラゴン(手札) → 墓地
大和「俺が送ったカードは三枚。よってデッキから三枚ドローする」
シルビア「さしずめ〈スィール・ドラゴン〉を墓地に送ったんやろけど、残念どすなぁ。サーチするはずの〈創の目の反逆龍〉はもうデッキにはありませんえ」
大和「ふっ!」
シルビア「なにがおかしいんどす?」
大和「シルビア、お前ほどのデュエリストでも、俺のデッキが〈創の目の反逆龍〉が中心に構成されているとでも考えていたのか?」
シルビア「ハッタリは通用しませんえ。うちかてちゃんと研究してきたんよ。公式・非公式の大会のデータからデッキにどんなカードを入れられてるんか、カウンターするタイミングはいつか、決着を仕掛ける条件とかな。せやからわかってるんどす。大和はんの戦力と行動は」
自信ありげに口を開くシルビア。
おそらく、シルビアはかなりの時間を割いて大和のデュエルを研究したのだろう。そのデータを参照してデッキを構築し、癖を理解し、隙を突くための準備をしてきたのだ。
だが、大和もハッタリでこんなことを言うデュエリストではない。
大和「ならば焼き付けろ! 反逆の名は〈創の目の反逆龍〉が由来でないことを刻み込む!!」
大和の上空に〈融合〉発動時に起こる特有の渦が出来始めた。
大和「魔法カード〈龍の鏡〉発動! 墓地に存在するドラゴン族モンスターを融合する!!」
龍の鏡 通常魔法 自分フィールド上または墓地から、融合モンスターによって決められたモンスターをゲームから除外し、ドラゴン族の融合モンスターを融合デッキから特殊召喚する。(この特殊召喚は融合召喚として扱う) シルビア「〈ツイン・スィール・ドラゴン〉どすか・・・確かに攻撃力なら〈パーシアス〉を超えますけど、うちが何にも考えてへんとお思いどすか?」
大和「三体の〈スィール・ドラゴン〉をゲームから除外し!」
スィール・ドラゴン×3(墓地) → 除外
シルビア「三体の〈スィール・ドラゴン〉!?」
驚きを隠せないシルビア。
きっとデータの中には存在していなかったのだろう。
三体の〈スィール・ドラゴン〉を融合する状況が。
大和「〈ラスト・スィール・ドラゴン〉を融合召喚する!!」
三つの頭が同時に現れた。それぞれに黒、緑、赤、三色の瞳が輝き、赤黒い鱗が細身ながらも大きな身体を覆っている。翼のようなものはないが、自分の身長ほどの尾が三本もあり、そのせいか自身の身体よりも大きく見える。
三つの頭がそれぞれ口を開いた。
耳鳴りがしそうなほどの咆哮が、シルビアとその天使達を襲う。
シルビア「攻撃力4200!? そんな・・・うちが知らへんカードがまだあったやなんて!?」
大和「〈ラスト・スィール・ドラゴン〉を召喚したのはこれで二度目だ。もちろん公式、非公式の大会でも一度としてなかった。知らなくて当然だ」
シルビア「ただの生贄要員やなかったんどすか・・・完全にうちの計算ミスやわ」
苦虫を噛んだような表情になるシルビア。
大和「〈スィール・ドラゴン〉をただの生贄要員と考えていたのか・・・くだらないな!」
自分の目の前で拳を作り、意志を込めて大和が叫ぶ。
大和「俺は常に負けることが許されない所に身を置いている。勝つために最善をつくし、信じたカードのみを投入してデッキを組み上げた・・・捨て駒など存在はしない!!」
シルビア「うっ・・・!」
あまりの迫力に言葉を失うシルビア。
構うことなく、大和は攻撃を始めた。
大和「覚悟は出来ているだろうな」
〈ラスト・スィール・ドラゴン〉が大地を蹴り上げた。
大和「三体融合はダテじゃないぞ!」
疾風のごとく駆け出した〈ラスト・スィール・ドラゴン〉。土煙を上げながら〈パーシアス〉に向かって突撃する。
大和「タダで済むと思うな!!」
〈ラスト・スィール・ドラゴン〉がその鋭い牙で〈天空騎士パーシアス〉の餌食になった。
大和「ソニック・スィール・ファング!!」
〈ラスト・スィール・ドラゴン〉ATK 4200 VS 〈天空騎士パーシアス〉ATK 1900
撃破!〈ラスト・スィール・ドラゴン〉が移動したあとに出来た突風がシルビアを襲う。
シルビアは何とか持ちこたえながら、大和を睨みつける。
シルビア「確かに強力な攻撃どしたけど、うちには〈天空の聖域〉があります。ライフダメージはありませんえ」
大和「それもこれまでだ」
シルビア「そんなこけおどしは通用する思うてはるん?」
大和「ふっ!」
三本の尾がしなりながら天空に向かって上っていく。そして次の瞬間、轟音をたてながら振り下ろされた。そして次の瞬間、〈天空の聖域〉が砕けてゆく。
シルビア「〈天空の聖域〉が!?」
大和「〈ラスト・スィール・ドラゴン〉の特殊能力だ。戦闘でモンスターを破壊した場合、フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊することができる」
ラスト・スィール・ドラゴン 光 ドラゴン族 10 ATK 4200 / DEF 4000 「スィール・ドラゴン」+「スィール・ドラゴン」+「スィール・ドラゴン」
このカードが攻撃を行った場合、ダメージステップ終了時にフィールド上のカード1枚を破壊する。シルビア「随分と攻撃的なモンスターどすな。大和はんらしゅうないんやない?」
大和「俺らしくないだと・・・そう思うならば、お前は今まで本当の俺を見たことがなかったということだ」
シルビア「本当の大和はんを?」
眉間にしわを寄せるシルビア。
大和は疑問に答えることなく、カードをセットすると、
大和「俺はカードを3枚セットし、ターンを終了する」
5ターン目
シルビア LP 2500 手札:2 リバースカード1枚 神聖なる球体〈表攻撃〉×2 ラスト・スィール・ドラゴン〈表攻撃〉 リバースカード4枚 大和 LP 100 手札:0 たった一ターンの間に形勢逆転されてピンチに陥ったシルビア。
表情には焦りの色が見えるが、諦めているようにも見えなかった。
シルビアはドローしながら叫ぶ。
シルビア「うちも負けるわけにはいかないんどす! 葉沙の待つ決勝戦にいくまでは!!」
力強さを感じさせる瞳が、シルビアの想いを物語る。そしてデッキもそれに応えようとしたのか、カードを確認したシルビアが口元だけを動かして笑った。
シルビア「魔法カード〈福音の宝札〉発動! このカードは自分フィールドに存在するモンスターを任意の枚数デッキに戻し、戻した枚数だけカードをドローできるんどす。うちは二体の〈神聖なる球体〉をデッキに戻して」
福音の宝札 通常魔法 自分のフィールドに存在する任意のモンスターカードをデッキに戻してシャッフルする。その後、デッキに戻した枚数分のカードをドローする。 神聖なる球体×2(フィールド) → デッキ
素早くカードをカットするシルビア。再びデッキをセットすると、
シルビア「カードを2枚ドロー!」
手札補充を済ませたかに見えたが、まだのようだ。勢いに任せて、シルビアがカードを発動させてゆく。
シルビア「さらに〈強欲な壺〉を発動させて、2枚ドロー」
強欲な壺 通常魔法 自分のデッキからカードを2枚ドローする。 シルビア「魔法カード〈増援〉の効果で、デッキから〈ゼラの戦士〉をサーチ!」
増援 通常魔法 デッキからレベル4以下の戦士族モンスター1体を手札に加え、デッキをシャッフルする。 シルビア「さらに手札に存在する〈天空の使者 ゼラディアス〉を墓地に送ることで効果発動! デッキから〈天空の聖域〉を手札に加えますえ」
天空の使者 ゼラディアス 光 天使族 4 ATK 2100 / DEF 800 このカードを手札から墓地に捨てる。デッキから「天空の聖域」1枚を手札に加える。フィールド上に「天空の聖域」が存在しない場合、フィールド上のこのカードを破壊する。 天空の聖域(デッキ) → 手札
シルビア「そして〈天空の聖域〉を発動させ、〈ゼラの戦士〉を召喚!!」
ゼラの戦士 地 戦士族 4 ATK 1600 / DEF 1600 大天使の力を手にいれる事ができるという聖域を探し求める戦士。邪悪な魔族からの誘惑から逃れるため、孤独な闘いの日々を送る。 シルビア「〈ゼラの戦士〉を生贄に〈大天使ゼラート〉を特殊召喚!!」
大天使ゼラート 光 天使族 8 ATK 2800 / DEF 2300 このカードは通常召喚できない。このカードは「天空の聖域」がフィールド上に存在し、自分フィールド上に表側表示で存在する「ゼラの戦士」1体を生け贄に捧げた場合のみ特殊召喚できる。光属性のモンスターカード1枚を手札から墓地に捨てることで、相手フィールド上に存在する全てのモンスターを破壊する。この効果は自分フィールド上に「天空の聖域」が存在しなければ適用できない。 シルビア「どうやらそこのリバースカードはブラフらしいどすなぁ。カウンター罠やったら、とっくの昔に発動させたはずやし」
シルビアの表情にゆとりが表れ始めた。
危険だと理解していたが、賭けに出るしかなかったのだ。カウンター罠の恐怖を知りながら、臆することなく魔法カードを使い続けることで、リバースカードを判断しようと。
賭けは成功と言えるだろう。
一般的にはドローソースをカウンターすることは当たり前の行動である。手札補充をさせないため、そして逆転可能になるカードを引かせないために。
現に1枚たりともカウンターされなかったということは、伏せてあるカードはカウンターではないことの証明とも言えた。
大和のデッキにカウンター以外のチェーン可能なカードがほとんど入っていないことを知っているシルビアからすれば、これはまたとない好機。
一気に叩き潰す絶好のチャンスなのだ。
シルビア「仮にモンスター効果対策として〈天罰〉が伏せてあったんやとしても、手札コストが必要になりますからなぁ。もう、うちを止める手ェなんて残ってはりませんやろ」
今の大和の手札は0枚。
シルビアの言う通り手札を1枚捨てることで発動する〈天罰〉。手札のない今の大和には効果を使用することはできない。つまり、〈大天使ゼラート〉の効果を無効化することができず〈ラスト・スィール・ドラゴン〉は破壊され、〈大天使ゼラート〉の攻撃で大和の敗北が決定するのだ。
シルビア「〈大天使ゼラート〉の効果発動! 手札の天使族モンスター1体を墓地に送り、相手フィールド上のモンスターを全滅させますえ」
シルビアが最後の手札である〈コーリング・ノヴァ〉を表にしたあと、墓地へと送る。
シルビア「天の雷よ!!」
〈大天使ゼラート〉が握る剣に稲妻が帯びる。
ゆっくりと振り上げると、雄たけびとともに振りぬいた。
稲妻は〈ラスト・スィール・ドラゴン〉に向かっていく。
しかし・・・・・・
大和「リバースカードオープン! 〈加護の障壁〉」
稲妻は光の壁に弾かれた。
シルビア「そんな!?」
大和「カウンター罠〈加護の障壁〉の効果はモンスターを破壊する効果を無効化する」
加護の障壁 カウンター罠 「モンスターを破壊する効果」を持つカードを発動した時に発動できる、その発動を無効にする。 シルビアは歯を食いしばりながら、自分を掴んだ。今の自分には打つ手がない。出来るとすれば、次のターンまでライフポイントを保たせるくらいだろう。
最後のリバースカードに全てを賭けたシルビアは、
シルビア「ターン・・・終了どす」
6ターン目
大和「俺のターン、ドロー」
大和はカードをドローしながら、シルビアを見つめた。その表情には戦士のままで、とても厳しいもの。だが、同時に優しさも感じられた。
理由はわからない。
同情や哀れみの類なのか。
それとも・・・・・・
大和「お前がどうして葉沙にこだわるか、理由は知らない。だが、勝利を譲るようなこともしない」
シルビア「デュエリストとして当然どすな。勝負の世界は厳しいんやから」
大和「俺は〈ミラージュ・ドラゴン〉を召喚する」
シルビア「2体目の〈ミラージュ・ドラゴン〉・・・」
大和「決着をつけるぞ! 〈ラスト・スィール・ドラゴン〉の攻撃!! ソニック・スィール・ファング!!」
〈ラスト・スィール・ドラゴン〉が〈大天使ゼラート〉に襲い掛かかろうと差し迫った瞬間、シルビアが口元を緩めて笑った。
シルビア「この勝負、うちがいただきますえ」
大和「罠カードは通用しないぞ!!」
シルビア「いくら〈ミラージュ・ドラゴン〉がいてはるからて、魔法カードは防げませんえ!」
大和「速攻魔法か!?」
シルビア「リバースカードオープン! 〈収縮〉!!」
収縮 速攻魔法 フィールド上に存在するモンスター1体を選択する。そのモンスターの元々の攻撃力はエンドフェイズまで半分になる。 シルビア「確かに攻撃自体はどうすることもできませんけど、攻撃してくるモンスターの攻撃力を下げることならできますえ!!」
大和「勝利への執念は見事だ・・・だが!!」
大和は予想していたのか、デュエルディスクのリバースカードに手を伸ばす。
大和「カウンター罠〈マジック・ドレイン〉発動! 〈収縮〉の効果を無効化する」
マジック・ドレイン カウンター罠 相手が魔法カードを発動した時に発動可能。相手は魔法カードを1枚捨ててこのカードの効果を無効化する事ができる。捨てなかった場合、相手の魔法カードの発動を無効化し破壊する。 シルビア「そんな・・・まさか、今までこのタイミングを待ってて、出し惜しみしてはったやなんて!?」
大和「勝利を確信したときに、カードの出し惜しみなどしない」
〈ラスト・スィール・ドラゴン〉ATK 4200 VS 〈大使ゼラート〉ATK 2800
撃破!シルビア「それでもまだライフダメージは!!」
大和「出し惜しみはしないと言ったはずだ! リバースカードオープン〈光速追撃〉!! この効果により、〈ミラージュ・ドラゴン〉を生贄に捧げ、モンスターの攻撃をもう一度行う!!」
光速追撃 通常罠 自分フィールド上からモンスターカード1枚を生贄に捧げ、モンスター1体を自分フィールド上から選択する。選択したモンスターはこのターン2回攻撃する事ができる。 シルビア「そんな!?」
大和「これで決める!!」
〈ラスト・スィール・ドラゴン〉が再びシルビアを襲う。
シルビアは身構えることなく、それを黙って受け止めることしかできなかった。爆発が起こり、最後のライフポイントが奪われていく。
シルビア LP 2500 → 0
デュエル終了!!
勝者――大和!!ジャッジ山田「決まったぁああああああ!! 天堂大和、追い詰められながらも、見事逆転を果たし、勝利をもぎ取ったああああああ!!」
勝利宣言された瞬間、観客は沸きあがり、シルビアは全身から力を抜いて、大きく溜息を吐いた。一方、決勝へとコマを進めた大和は勝利に酔いしれている様子もなく、平然とした態度で目を閉じていた。
デュエリスト同士の握手のあと、デュエルリングを去っていくシルビア。
それでも大和は、シルビアを見ようとはしなかった。
ようやく人目の離れた場所についたシルビアは、壁に寄り添いながら独り言を呟いた。
シルビア「大和はんのこと、葉沙に教えたこと・・・今は後悔しとるんどす。葉沙が純粋に追いかけていくから」
シルビアは涙を隠しながら続ける。
シルビア「置いてけぼりになりそうで・・・うちは・・・・・・」
一体どれだけの時間が経過したのか。
ただ抱き合った体勢のままの二人はわからずにいた。
どうにか落ち着きを取り戻した葉沙は、ようやく自分が何をしているのか理解し、咄嗟にクリアから離れる。
クリア「そっその・・・ごめん」
葉沙「ううん。私こそ・・・その・・・」
少しの間の沈黙。
気恥ずかしさのせいか、二人とも口を開こうとはしない。お互い俯いたままの姿勢を保っている。
葉沙「今日のことは忘れてよね。あんなの、手違いみたいなものなんだから」
ようやく口にした台詞はこうだった。
やはり恥かしいのか、顔を背けながらクリアに大声を張る葉沙。
葉沙「あと、誰にも言わないこと。絶対だからね」
さらに念を押す葉沙。
よほど知られたくない事実らしい。
クリア「ああ、わかった」
葉沙「でもさ・・・ちょっとだけすっきりしたのも事実だから・・・」
クリア「ん?」
葉沙「ありがと・・・」
葉沙はいつもとは違う優しい笑みを見えた。
クリアは葉沙の意外な一面を垣間見たことを幸運だと感じながら、同時に気恥ずかしくなってしまった。
それを隠そうと必死になり、テレビのリモコンを手に取った。電源のスイッチを押すと、すぐに画面が写りだす。そこにはデュエルフィールドを後にするシルビアと、拳を握り締めて仁王立ちする大和の姿。
その光景を見ただけで勝利者を判断することは容易だった。
クリア「シルビアの敗北みたいだな」
難しい顔をするクリア。
シルビアが負けしまい、どうすればよいのか複雑な心境なのだろう。
一方、葉沙はというと、テレビに映る大和の姿に釘付けになっている。
葉沙「次のデュエルは・・・大和・・・大和と・・・デュエル・・・」
ブツブツと独り言を呟き始めた葉沙。
その表情は先程のものと違い、気迫が満ち溢れている。まるで敵を眼前にした武士のようだ。
それを見ながらクリアは一人、安堵の笑みを浮かべる。
考え込む葉沙の姿がとても嬉しく思えた。悩んでいたことなど、当の本人は忘れてしまっているのだろうと想像して。