第22話 決着の先は始まり!!


○デュエルフィールド○


7ターン目

葉沙LP 3700手札:なし
インテリジェント・アーティファクト―エターナル・ハート―〈装備魔法〉(スィンセリティ・ガールLV7装備)
スィンセリティ・ガールLV7〈攻撃表示〉
なし
なし
大和LP 1000手札:2枚

 絶対に倒せないとまで噂された〈創の目の反逆龍〉は地に倒れた。

 人々は静まり返り、世界は止まる。回るのは時計の針だけで何も動こうとはしない。

 逆らうことを許されるのは中心でデュエルする二人のデュエリストだけ。

 最初に動いたのは大和だった。切札を撃破され、かなりの戦意を失ったはずのデュエリストは、脱力する身体を無理やり奮い立たせて前進する。

大和「たとえ反逆龍が敗れたとしても、俺が敗北したわけではない!!」

 大和の気迫は落ちるどころか、ますます高まっているように見えた。

 勝利は目前というにもかかわらず、葉沙の思考に危機感が走る。

葉沙「でも、今のスィンを倒せるモンスターなんて、そうはいないはずよ」

 強気に発言する葉沙。

 言っていることは正しい。攻撃力3100のスィンを倒せるモンスターをそう易々と召喚できるものではない。大和はすでに〈創の目の反逆龍〉と〈ラスト・スィール・ドラゴン〉を失っている。ほかにも同クラスの上級モンスターがデッキに存在しているとは考えにくい。上級モンスターはデッキに投入すればするほど事故を起こす可能性が上がっていくだけでなく、召喚するために生贄を用意する必要があるからだ。仮に存在していたとしよう。だが、今の大和のライフポイントでは次のターンまで耐えられない。

 つまりこのターン中にそのカードを引き当て、召喚し、スィンを撃破しなければならないことになる。

 それは容易なことではない。

大和「ふっ・・・」

 この危機的状況で突然笑い出した大和。

 葉沙は少しムッとして大和に、

葉沙「なにがおかしいのよ!」

大和「これほどの危機に陥ったのが嬉しくてな」

葉沙「嬉しいですって?」

 初めて感じる奇妙な感覚だった。大和はこれほどの危機を嬉しく感じると、そう言った。しかし、今の彼を見る限り、そうとは考えられなかった。

 この状況に危機を感じているのは確かだと思う。

 しかし、見ているものが違う気がするのだ。

 まるで別の何かと重ね合わせているかのように。

大和「そうだ。前の俺はこの状況を打破できなかった。反逆しきれなかった・・・だからこそ、俺はァァァァァァ!!」

 勢いに任せてカードをドローする大和。

 この瞬間、葉沙は急に息苦しさを感じた。

 それが大和からのプレッシャーであることはすぐに理解できた。

 これが反逆の大和と呼ばれるデュエリストの本気。全力の姿。

 一瞬だけ垣間見えた大和という人物の闘争本能の凄まじさが葉沙を襲う。

葉沙(すごい気迫・・・押しつぶされそう)

 気おされそうになるのを必死に堪える葉沙。スィンが葉沙をかばう様に前に出る。

スィン(気をつけてください、葉沙)

葉沙「わかってるわよ」

 再び構えなおす葉沙。

大和「魔法カード〈魔法石の採掘〉発動! 手札を2枚墓地に送り、〈背水の融合陣〉を手札に加える」

魔法石の採掘通常魔法
自分の手札を2枚捨てる事で、自分の墓地に存在する魔法カードを1枚手札に加える。

背水の融合陣通常魔法
自分のライフポイントが100ポイントになるようにライフポイントを払って発動する。このターンに特殊召喚された融合モンスターは元々の攻撃力分だけ攻撃力がアップする。

ジャッジ山田「おおっと、これはどういうことだ!? 天堂大和、勝負を捨てたのか!!」

 困惑する会場。

 無理もない話である。〈背水の融合陣〉の名の通り、モンスター融合をサポートするカードだ。このタイミングで残りの手札2枚をコストに回収する必要はない。

 大和の手札には融合を成立させるだけのカードがないのだから。

葉沙「一体なんで? 回収するなら〈命削りの宝札〉で手札を補充するのが普通じゃない!!」

 本来ならばそうするだろう。

 逆転をするためには、まず手札を補充しなければならない。しかし、大和はそれを放棄する行動を取った。

 そんな大和のメチャクチャなプレイングに葉沙が苛立ちを覚えないはずがない。だが、大和は気迫で葉沙の意見を跳ね除ける。

大和「普通など知ったことではない!! 定石という言葉は当の昔に切り捨てた! 俺は勝つためだけに行動し、己が危機に対して反逆するのみ!!」

 葉沙は大和の信念を感じ取った。

 ただひたすら反逆し続ける大和の信念を。


○車内○


 レンタルカーは法定速度を厳守しつつも、確実の会場へと向かっていた。

 周囲の自動車を警戒しつつ安全運転を心がけるレオナ。後部座席には律儀にシートベルトをつけたヴァイスとアルトが座っている。ヴァイスはテレビに映る決勝戦を真剣に見つめていた。移動中の車内では電波環境が良くなく、映像や音声が途切れてしまう。しかし、ヴァイスの集中力は凄まじい。それすら気にする素振りも見せず、テレビに注目している。一方、隣のアルトはというと空港で買い込んだお土産を次から次へと頬張っていた。その顔はまるで口に木の実を溜め込んだリス。車酔いなんか心の辞書にはないことを無言の行動で示していた。

 そんなアルトの行動に気真面目なレオナが苛立ちを覚えないはずがない。

 声だけで、

レオナ「アルト・・・」

アルト「何スか、アネさん?」

 アルトは口の中のものをモゴモゴさせながら返事をする。

 さらに機嫌を悪くするレオナ。

レオナ「口の中をカラにしてから話せ!」

 バックミラーから見えるレオナの鬼の形相にまたまたビビリまくるアルトは、手元にあったミネラルウォーターをがぶ飲みして原形を失ったお土産を一気に飲み込んだ。

アルト「なんで怒ってるんスか、アネさん。まだ怒られるようなことなんてしてないッス」

レオナ「私は別に買ってきたお土産を食べるなとは言わないし、車の中でもヴァイス様の護衛任務を忘れているとも考えてはいない。ただ・・・」

アルト「ただ?」

 アルトの鈍感さに腹を立て、こめかみをピクピクさせ始めたレオナ。

 バックミラーごしに見せるその表情に、恐怖を隠せないアルト。

 理由は関係ない。ただ謝らなければならないと感じたらしく、頭を下げようとしたが、すでに時遅し。

レオナ「ヴァイス様の邪魔をするのは論外だと言っている!」

 本日二度目の堪忍袋の尾を切ってしまった。

アルト「じゃ・・・邪魔なんてしてないじゃないッスか」

 若干震えながらも必死に弁解を試みるアルト。しかし、レオナにそんなことは関係ない。

 いつも以上に饒舌を捲くし立ててアルトを怒鳴りつける。

レオナ「その貴様の行動自体が邪魔をしていると言っているのだ! ヴァイス様は決勝戦のデュエルに集中しておられるというのに、こともあろうに貴様は隣でパクパクムシャムシャと!!」

アルト「腹減ったんスからしょうがないじゃないッスか。それともアネさんは俺が餓死してもいいとか言うんスか?」

レオナ「たとえ飲まず食わずでも1日くらいで死にはしない」

アルト「俺・・・これでも成長期ッス」

レオナ「そんなのも関係ない!」

 声を荒げてアルトを叱り飛ばすレオナ。本当は「その怒鳴り声のほうがうるさいのでは?」と揚げ足を取りたいところだが、そんなことをすれば、ますます自分の首を絞めることになる。レオナにさんざん怒られ続けているアルトにとって、それはただの地獄でしかない。それを回避するためには、おとなし〜くするしか手段がないのだ。

 隣ではデュエル以外の事象に無関心を貫くヴァイスが、目を細めていた。

 そして肩の力を抜くと手短にあったペットボトルを手にして、その中のミネラルウォーターを一口だけ口に含んだ。

 それを好機を判断したのか、説教中にもかかわらず、アルトはヴァイスに話しかけた。

アルト「デュエル終わっちまったのか?」

ヴァイス「ええ」

 静かにそう言うヴァイス。

 レオナ自身もデュエルのほうは気にしていたようだ。説教を中断して、ヴァイスに結果だけを尋ねる。

レオナ「それで、どちらが勝利したのです?」

 ヴァイスは満足そうに満面の笑みを見せた。


○デュエルフィールド○


 大和の信念を感じ取った葉沙は戦略を考え込み始めた。大和が考えなしでこんな行動を取るはずが無い。何かあるはずだ。おそらく手札をそうしなければならない理由が。

 答えはすぐに判明するだろう。

 大和が行動するのだから。

大和「ライフポイントを100になるまで支払い、回収した〈背水の融合陣〉を発動! これでこのターン、特殊召喚された融合モンスターの攻撃力は2倍となる」

大和 LP 1000 → 100

葉沙「でも〈融合〉のカードどころか融合素材もないじゃない! そんな状況でどうするつもり?」

大和「融合とは必ず魔法カードを用いなければならないとは限らないぞ!」

 この瞬間、葉沙の思考は一つの答えを導き出した。大和がどうして不思議なプレイングばかりを行ってきたのかを。

 一つ一つの行動を分析していけば、難解なパズルを解いていくかのように答えは自然と導き出されていく。

 作り出そうとしていたのだ。

 逆転するための状況を。

 葉沙に勝つための条件を。

葉沙「まさか・・・条件融合モンスター!?」

大和「そうだ! この融合モンスターを召喚するためには三つの条件がある」

葉沙「三つ?」

大和「一つ目はライフポイントが1000未満であること。二つ目は自分のフィールドと手札にカードが一枚もないこと。この条件は今満たした」

 大和はこの条件を満たすために無理やり手札を消費したと言う。

 その一言に驚きを隠せない葉沙。

葉沙「うそ! そんな厳しい条件を満たせなんて」

大和「まだある。三つ目の条件・・・自分の墓地にモンスター・魔法・罠がそれぞれ5枚以上あることだ!」

葉沙「なっ!?」

大和「最初は〈ヒナリュウの卵〉。墓地に送った〈神竜 ラグナロク〉〈レアメタル・ドラゴン〉〈ミラージュ・ドラゴン〉。そしてお前が倒した〈ラスト・スィール・ドラゴン〉。この時点でモンスターの条件は満たした。次に魔法カード。ドラゴンを墓地に送った〈ドラゴン族の意地〉。融合召喚に使用した〈龍の鏡〉。手札補充をするための〈強欲な壺〉〈命削りの宝札〉。ゲームから除外した〈スィール・ドラゴン〉を墓地に戻すために使った〈異次元からの埋葬〉。魔法カードの条件も満たしている」

葉沙「でも・・・」

大和「気に食わないか?」

葉沙「私が知る限り、あんたが罠カードを使用したのは〈ラスト・スィール・ドラゴン〉を守るために使った3回だけ。それじゃ罠カードが足りてないじゃない。召喚条件は不成立よ」

大和「確かにそうだな。だが手札を墓地に送る機会はあった」

葉沙「そんなときなんて・・・!?」

 葉沙は直感した。

 自分で口にしていたのだ。

 罠カードを墓地に送るタイミングを。

大和「〈トラップバースト〉〈天罰〉は手札をコストにして効果を発動させる罠カードだ」

 カウンター罠を得意とするにもかかわらず、それをコストにする大和の大胆な戦術に驚愕する葉沙。

葉沙「それでもまだ1枚足りてないわ。〈次元封鎖〉は効果を発動させても墓地にカードを送ることはできないはずよ」

大和「ほかに一度だけあったはずだ。お前が俺を出し抜いたように・・・俺もお前を騙すプレイングをした」

葉沙「ほかにって・・・まさか最後の〈魔法石の採掘〉で!!」

大和「そうだ。五枚目の罠カードと〈背水の融合陣〉を墓地に送り、コストで使用した〈背水の融合陣〉を回収した」

 会場中が唖然とし、同時に大和の反逆を刻み込まれた。

 だが、葉沙だけは違った。興奮を抑えることもせず、新たなモンスターの登場を心待ちにしている。

 全力のデュエルを楽しんでいるのだ。

葉沙「あんたがそこまでするほどのモンスターってことでしょ。」

大和「期待し、そして嘆くことを約束する」

 大和の一言に武者震いを抑えられなくなる葉沙。

 その武者震いに応えるかのように、大和も全力を見せた。

大和「墓地に存在する魂を込めた全てのカードを融合し、〈信念を貫きし機獣〉よ、フィールドへと舞い落ちろ!!」

 上空から銀に輝く物体が高速度で地面に激突した。巻き上がる土煙の隙間から光を反射して現れたその姿は白銀の鎧を身に纏う狼。背中には折りたたまれた翼とブースターのシルエット見え隠れしており、両肩に装着された砲塔と腹部にあるソードが攻撃的な特徴を露わにしている。

 葉沙は逆転を可能とするモンスターを目の当たりにして、今日何度目か分からない危機感を覚える。

葉沙「攻撃力3500!?」

信念を貫きし機獣機械族8
ATK 3500 / DEF 3000
自分の墓地にモンスター・魔法・罠カードがそれぞれ5枚以上存在し、フィールド上にカードが存在せず、自分の手札が0枚の時でライフポイントが1000以下の場合のみ、融合デッキからが可能(「融合」魔法カードは必要としない)。?????? *融合モンスター

大和「この瞬間、発動させていた〈背水の融合陣〉の効果発動! 〈信念を貫きし機獣〉の攻撃力は倍となる」

信念を貫きし機獣
ATK 3500 → 7000

ジャッジ山田「ここで怒涛の勢いを示した天堂大和! 琴木葉沙はこれを受けきることができるだろうか!!」

 最後の最後で現れた新たなる壁。その機獣は反逆と称した龍と同じく、高く巨大で、轟々しく感じられる。

 今の葉沙には手札はなく、リバースカードもない。モンスターの攻撃力にも圧倒的なほどの差があり、ちっとやそっとでどうにかなるものでもなく。

 決してスィンが弱いわけではない。

 〈エターナル・ハート〉の性能が悪いわけでもない。

 葉沙は全力で反逆龍を撃破した。誰も打ち破れなかった龍を倒したのだ。だが、その時点で力を使い果たしてしまった。

 結果として葉沙の気持ちより大和の覚悟のほうが上だったということ。

 それだけの話。

 だから結末は終焉を告げる。

 葉沙に逆転の手段は・・・・・・ない。

大和「琴木葉沙! お前に俺の信念を見せつける!! いけ! 〈信念を貫きし機獣〉よ!! ヤツの限界を超えろ!! フルドライブバースト!!」

 腹部のソードが緑色に発光し、電気を帯びながらバチバチと音を鳴らす。折りたたまれていた翼が姿を現した後、背部のブースターが点火された。

 細く鋭い瞳が輝いた瞬間〈信念を貫きし機獣〉は上空へと飛び立ち、急降下しながらスィンに突貫する。スィンも応戦するために杖を構えて魔力弾を放った。が、それでは止められなかった。着弾し爆発したものの、その中から現れた〈信念を貫きし機獣〉は、勢いのままスィンをソードで貫いた。そのとてつもない衝撃は勢いをそのままに葉沙の身体をも貫く。

葉沙「キャアアアアアア!!」

葉沙 LP 3700 → 0


○車内○


 ヴァイスは笑みをこぼしながら口を開いた。

ヴァイス「反逆の名は伊達ではないようです。彼女もいいデュエルをしましたが、あと一歩及ばなかった」

レオナ「そうですか・・・紅の言う通りにはならなかったみたいですね。やはり反逆龍を倒すには到らなかった。私でもあれは多少苦労させられる相手ですから」

 さらっと言ってのけるレオナ。

 彼女からすれば苦戦を強いられるほどではないと言う。

アルト「正直言っちまうと、アネさんと同じ意見でちょっと厄介ッスね。なんでもかんでもカウンターしてきやがる上、チェーンで割ろうとしても今度はカウンター罠を伏せてやがるからな。二重のカウンターはちょっとキツいぜ」

 アルトもレオナと同意見のようだ。

 間接的に考えれば、彼等のいう彼女の実力は程度が知れると言っていることと同義である。

 しかし、ヴァイスだけは違う考えのようだ。

ヴァイス「そんなことはないです。クレナイさんの情報は的確でしたよ」

レオナ「どういう意味ですか?」

ヴァイス「彼女はあの反逆龍を倒しました。しかもバトルで・・・です」

アルト「ウソだろ!? 攻撃力3500の反逆龍をバトルで倒しちまうなんて!?」

 首を振りながら

 一般的にいうならば、魔法・罠カードが使えない状態で攻撃力3500のモンスターをバトルで倒すことは容易ではない。

 だが、レオナはすぐにアルトの意見を否定した。それを可能とするカードを彼女が手にしていることを知っているからだ。

レオナ「紅がその要因だ。彼女に我々の切札を託したのだからな」

アルト「なんでそんなことしたんスか!! アレがないと封印が!!」

 よほど大切なカードなのだろうか。

 珍しく声を荒げるアルト。

ヴァイス「アルト、落ち着いて。きっとクレナイさんには確信があるのでしょう。彼女が正しき道を歩くという確信が」

アルト「ったく、あの人は昔から性格わかんないスから。困りもんッスよ」

レオナ「それだけは私も同意見だ。今までの人生の中であれほど考えの分からない女はいない」

ヴァイス「二人とも酷いですよ。クレナイさんは僕達の理想に共感し、同士となりました。世界の平和を望んでいる一人なのです」

アルト「ヴァイスの言う通りだな。それは間違いないと思うぜ」

 言いたい放題言ったあとで勝手に呆れて納得する二人。それを見て安堵するヴァイス。

 だが、和んだ空気はすぐにピリピリしたものに変わった。

レオナ「分かりきっていることだからな。とにかく、今は紅やグラーフと合流することが最優先です。きっとヤツらもこの状況に敏感に反応するはずですから」

ヴァイス「そうですね。場合によっては僕たちも力を行使する必要が出てくるかもしれませんから、そのつもりでお願いします。アルト、その旨をグラーフさんたちに伝えてもらえますか? レオナさんは到着しだい、デュエルの準備を。僕も動きます」

 二人は頷き、ヴァイスもそれに対して頷き返した。


○街中○


 大会は何事もなく無事に終了した。表彰式に立つ大和には盛大な拍手を送られ、葉沙もまた同様に拍手を送った。

 そのあとも葉沙は大変な目に遭う。

 大和と互角にデュエルをしてみせた葉沙にサインを強請るファンが現れたのだ(しかもかなりの数)。おかげで身動きが取れなくなり、必死に会場中を逃げ回ることになる。

 なんとか会場の外で零蘭たちと合流することに成功したあと、近所のファミレスに立ち寄りケーキバイキングでヤケ食いしようと提案されたが、葉沙としては乗り気にはなれずもガッツポーズで返事した。シルビアは急用で家に帰ったと聞いてガッカリしたのだ。とは言うが、やはりバイキングである以上、払った額を超えるだけのものを食べないと勿体無いと己の辞書に記している葉沙。

 結果としては1ホール以上は平らげた。

 食べすぎによる吐気を抑えながら、帰路についた葉沙達は、それぞれの家に別れていった。

 一人になった葉沙はスィンに話しかける。

葉沙「シルビア、よっぽどの急用だったのね。いつもは我先に現れてたのに」

スィン(そうなんですか?)

葉沙「そうよ。毎年同じことやってるんだから」

 不満げに呟く葉沙。

 理由は単純明快だった。

 聞いて欲しかったのだ。

 大和のとのデュエルで感じたことや考えたことを。

葉沙「返そうと思ってたのよ。あの〈シルヴァリオン〉のカード」

スィン(葉沙・・・♪)

 スィンは葉沙に笑みを見せると、嬉しそうに葉沙の肩に乗った。彼女に取って〈シルヴァリオン〉は恐怖の対象でしかないゆえに、素直に喜んだのだろう。

 葉沙は取り出した〈シルヴァリオン〉のカードを眺めながら呟く。

葉沙「強すぎる力は危険なんだって、そう思えたのよ。大和とのデュエルでね」

スィン(あの時の大和さんはすごく怖い顔をしていました)

葉沙「うん。なんていうか・・・修羅とか鬼とか、そんな感じの顔だったかな。まっ一瞬だけだったけどね」

スィン(まさか、あんな顔するなんて想像もできませんでしたし・・・)

葉沙「でも勝てないわけじゃないわ」

スィン(はい、葉沙)

 二人はリベンジを誓うと勢いよく走り出した。

 葉沙を待つ家はすぐそこ。

 家族のみんながきっとご馳走を用意してくれているだろう。励ましてくれるはずだ。

 だから・・・・・・・・・・・・

 もうすぐだ。この角を曲がれば玄関にたどり着く。そうすればまずゴールデンレトリバーのリリーが迎えてくれる・・・

葉沙「あれ?」

 はずだったのだが、その姿はない。

 それどころか家には灯り一つ点いておらず、周囲は異様な静けさを纏っている。

葉沙「なによ! この私を驚かそうってわけ?」

 きっと家の中で待っているのだろう。

 そう信じてカバンの中から鍵を取り出し、ドアのロックを解除した。ドアノブを握って一度だけ深呼吸する。もし驚かされても大丈夫なように。

 勢いよくドアを開けた。

 なにかの仕掛けはなかったようだ。

 そしてドアをゆっくりと開いた。

 確かにテーブルにはご馳走の山があり、その中心には特大ケーキが飾られている。しかし、返事をしてくれる家族は誰もいなかった。

 嫌な予感がした。

葉沙「なによこれ・・・冗談だったら、ただじゃおかないんだから」

 隣の部屋の扉を開けて、また次の扉を開けて。今度は一階から二回へと駆け上がり、走りながら家中のドアを開けて確認した。

 家には誰もいない。

葉沙「どうなってんのよ、いったい」

 不審がる葉沙。

 突然、呻き声が聞こえた。

 それが誰のものかは、すぐに判断できる。

葉沙「リリー!!」

 階段を一気に下り、声の聞こえたほうへと向かう。

 再びリビングに入ったその眼に映ったものは血の池を作った横たわるリリーの姿。

 慌ててリリーの元へ駆け寄る葉沙。

葉沙「リリー! リリー!!」

 必死に声をかけるが反応が無い。

 抱き上げると、その身体も冷たく、呼吸すらままならないようだ。葉沙は目の前にある電話の受話器に手を伸ばした。短縮ダイアルでリリーをいつも診察してくれる動物病院に電話をする。だが、電話がつながらない。

葉沙「どうしてよ! なんでつながんないの!! お父さんとお母さんはどこいったのよ!!」

 手を震わせながら焦る葉沙。

 いつもならば、感情的ながらも冷静に対処する葉沙が、今は迷子の子供のように涙目を浮かべて。

 それを察知してか、スィンが葉沙に助言する。

スィン(葉沙、携帯電話が葉沙のポーチの中に入っています。それで電話を)

葉沙「そっか、携帯があった」

 スィンに感謝しつつ、血まみれの手で腰に手をまわす葉沙。

 しかし、葉沙の手元にあるはずのポーチがない。どういうことだ? 家に帰るまで外してないはずのものがなくなっている。

葉沙「なんで! さっきまであったのに!!」

 急いで探さないと!!

 葉沙が立ち上がろうとしたその瞬間、

 後ろから声をかけられた。

 よく知る発音と言葉遣いのその人物。

 バッと振り合える葉沙。

 そして・・・・・・

シルビア「お探しのもんはこれどすか、葉沙?」

 葉沙のポーチを指でクルクル回しながら、笑みを浮かべるシルビアが立っていた。



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