葉沙「シルビア、早くそれを渡して!」
シルビアの手に握られているポーチを取ろうとする葉沙。しかしシルビアは伸ばされた葉沙の手からポーチを遠ざけた。意味不明の行動に葉沙は困惑する。
シルビア「それはあきまへんなぁ」
葉沙「なんで? どうして??」
シルビア「それはやな、そん子が葉沙に必要ないからどす」
葉沙「シルビア、あんた何言ってるのか分かってるの?」
葉沙の視線が鋭くなった。本気で怒り始めたのだ。腹の中から湧き上がるのを抑えているようだが、完全に抑えられない様子である。現に葉沙の右手に握り拳が作られている。
葉沙「携帯を渡して。それなら、まだ許してあげるから」
左手をシルビアの前に出す葉沙。
しかしシルビアは着物の裾の中に携帯を隠してしまった。
当然その態度に葉沙が不服を感じないわけが無い。さらに視線に力が入る。
シルビア「怖い顔どすなぁ。まるで鬼のようどすえ」
葉沙「私をこれ以上怒らせないで・・・いくらシルビアでも許せることと許せないことがあるから」
シルビア「よう知ってはりますえ。うちと葉沙は幼馴染みやからどすから」
葉沙「分かっててそうしてるわけ?」
シルビア「葉沙、この手を見たって。なんで包帯なんか巻いとると思います?」
何かの意図なのか、突然に話を逸らし始めるシルビア。
シルビア「そん子が噛んできたんよ」
葉沙「リリーは頭のいい子なんだから、むやみやたらに人を噛んだりしないわ」
シルビア「うちもそう思いますわ」
葉沙「だったらなんで噛まれるわけ?」
シルビア「それはやな・・・・・・」
不敵な笑みを浮かべるシルビア。
シルビア「大切なご主人様を守るために必死やったから・・・かもしれへんねえ」
葉沙「・・・ご主人様って!?」
この時になって葉沙はやっと気づいた。どうして家に誰もいないのか、リリーだけが血まみれになって倒れていたのかを。
葉沙「父さんと母さんをどこにやったの! 答えなさいよ、シルビア!!」
さらに怒気を強める葉沙だったが、シルビアは全く動揺していないようだ。
しれっとした態度で話を続ける。
シルビア「自業自得なんよ。うちらとの契約を破ったりするから」
葉沙「契約・・・? 契約って何のことよ?」
聞きなれない言葉に眉間にしわを寄せる葉沙。
シルビア「聞かされてへんのは当然やね。それも契約内容に入ってたし」
葉沙「だから契約って――!!」
葉沙の言葉を遮って、素直に質問に答えるシルビア。
シルビア「葉沙の両親と、うちの組織の間で結ばれた・・・な」
葉沙「結んだ契約って、一体何の話を!?」
シルビア「長い長い昔話になるんやけど」
突拍子のない話に葉沙は一瞬だけ動きが止まってしまった。だが、すぐに我に返って自分がするべきことを思い出す。
葉沙「これ以上、話をしてる場合じゃないの! ついでに今は短い話も大嫌いよ!!」
シルビア「15年くらい前にな、ある夫婦が流産したゆうお話や」
葉沙「もう聞いてなんか!!」
葉沙はシルビアの手に握られている携帯電話を奪い取ろうと手を伸ばした。しかし、シルビアは身軽に葉沙を避けると、そのまま腕で背中を押して葉沙を遠ざける。反応しきれずに転んでしまう葉沙。
葉沙「ツッ!!」
シルビア「もうちょい落ちつかなあきませんえ、葉沙」
転んだ葉沙の上にまたがるシルビア。葉沙の動きを押さえつけながら耳元で囁く。
シルビア「その夫婦は絶望した。十年もの間、賜らなかった夫婦にとっては念願の子供やったいうんに、流産してしもたんやからなぁ。ああ〜なんて可哀想なんやろ・・・」
わざとらしく涙を拭く振りをするシルビア。
シルビア「せやけど、そんな二人の前にとある男が現れた。生まれたばかりのかわいい赤子を抱いて・・・」
抵抗を試みる葉沙だが、シルビアは身体をうまく固めており、ピクリとも動かせない。
シルビア「その男はこう言うたんよ。『哀れなお前たちに、この子供を授けよう。ただし、目覚めることがあれば、返してもらうがな』ってな」
突然、心の底から恐怖が湧いた。
意志とは関係なく葉沙の身体は震えだし、息が苦しくなっていく。
葉沙「やだ・・・それ以上はヤダ」
嫌な予感を否定するかのように、唯一自由に動かせる首を振りながらシルビアを振りほどこうとする葉沙。だが、古武術の免許皆伝の実力のシルビアに悪あがき程度の行動は通用しない。身体はガッチリ固められて身動き一つ取れない。
シルビア「夫婦はその子供を受け取った。目覚めるいう意味は最後まで理解できへんかったみたいやけどな。でもそんなん気にしとっても始まらへん。今はこの子を大切に育てることが重要なんやって言うてな」
嫌がる葉沙を満足気に見つめながら、シルビアは続きを語り始める。
シルビア「多少、あぶなかしいこともあったみたいやけど、とっても素直でええ子に育ちました・・・・・・せやけどな、悲しい運命は突然訪れてしまうもんや」
さらに激しく抵抗を始める葉沙。頭だけが無意識に理解してしまっているのだ。シルビアが誰の昔話をしているのか。目覚めるとはどういうことか。この惨劇を生んだ存在と訳を。自分の今までが手に平で踊らされているだけだったことさえも。
シルビア「少女は目覚めてしまったんよ。せやから男は夫婦の下へ使いを出した。『約束通り返してもらう』って伝言と一緒にな。でも夫婦は首を縦に振らへんかった。愛し続けた娘を奪わせるわけにはいかへん言うてな認めたくなかった。でも意志とは関係なく、肯定を始めるもう一人の自分がいる。冷静に真意を探りながらも、相手の言葉を記憶を頼りに判断していくもう一人の自分。忘れていた過去さえも身勝手に穿り返していく。楽しかったことや大切な約束をしたこと、嫌だったことや苦しかったことまで。遠慮もなければ、プライバシーもない。自分なのだから当然といえば当然なのだが、決して気分がいいものではない。それどころが吐気がするほどだ。」
走馬灯のように続くそれに耐えられずリビングに嘔吐してしまう葉沙。それを見たシルビアはポケットからハンカチを取り出して葉沙の口を労わる様に拭きはじめる。
シルビア「ホンマにごめんな、葉沙。気分が悪うなったんに、うちが気づかへんかったから」
口を綺麗に拭き取ったあと、シルビアは葉沙の上から退いた。それどころか中腰になって葉沙を自分に抱き寄せ、背中を優しく擦り始める。
シルビア「それでも渡さへんなんて吐いたからには覚悟と責務がついて回る。それくらい葉沙も理解してはるやろ。たとえ命が無――」
葉沙「やめて!!」
言葉を遮りながら、力一杯シルビアを突き飛ばす葉沙。
葉沙「もう聞きたくない! もうヤダ! ヤダ!!」
耳を塞いで必死に外界との接触を断とうとする葉沙。
スィン(葉沙、落ち着いて! )
もはやスィンの声すら届いてはいない。シルビアが不敵に笑みを浮かべながら、再び葉沙に手を伸ばそうとした。
その時、複数の足音が家中に響いた。足音の一つが葉沙達のいるリビングに向かってくる。次の瞬間、乱暴にドアが開けられたかと思うと、葉沙の前に仁王立ちした。
その人物は・・・
シルビア「葉沙、大丈夫なん?」
なんと葉沙の目の前にもう一人のシルビアが現れたのだ。すぐに零蘭やマリアが現れ、葉沙に寄り添う。
が、二人のシルビアの存在に困惑する一同。それは葉沙も同様で、二人を見比べながら、
葉沙「シルビア?」
と震えた声で訊ねる。
だが、答えが返ってくる前に零蘭が大声を上げた。
零蘭「シルビアが二人になてるヨ! 一体どういうことアルか!?」
マリア「私にも・・・全く・・・」
零蘭「あちが本物アルか? それともこちが本物アルか!?」
マリア「確定・・・出来ない・・・」
零蘭「もう! 訳が分からないアル!!」
どちらが本物か分からず、どんどん混乱していく一同。しかし、シルビアだけはそうではない。どちらのシルビアだとしても、自分が本物か偽物かは判断できる。ただそれを証明する手段がないだけで。
シルビア「あんた、何者なん? どうしてうちの真似事なんか、してはるん?」
敵意をムキ出しにするシルビア。その相手もシルビアなのだから、不思議な状況なのだが、今はそんなことを気にしている場合ではない。シルビアは白鳳院流特有の構えをして、すでに臨戦態勢に入っている。だが、先ほどまで葉沙に跨っていたシルビアは動こうとはしない。裾から扇子を取り出して、口元を押さえながら笑っているだけ。不気味ともよべるその状況に皆動けずにいる中、シルビアが片手だけでなにやら指を動かし始めた。
葉沙(あの指の動き・・・)
誰もが気にも止めない小さな動作ゆえに一人だけ意味を理解した者がいるなどと、まさか思わなかっただろう。
シルビア「はああぁぁぁ!!」
指の動きが止まると同時にシルビアが動いた。扇子を持っているシルビアは後ろに飛び退こうとする。
だが、次の瞬間・・・
葉沙「この!!」
シルビアの身体を死角にして横から葉沙が足払いを仕掛けたのだ。
意表をついた攻撃に反応が遅れたシルビア。足払いは見事に決まり、体勢を崩して転んでしまった。そしてさらなる追撃の一手がシルビアを襲う。またも不可思議な状況なのだが、倒れて起き上がろうとするシルビアにシルビアが寝技で関節を取りにいっているのだ。
だが、それも身体を捻ってうまく避けられてしまった。そのままの勢いで立ち上がったシルビアが目を細めて呟く。
シルビア「なんで葉沙はうちを攻撃するん? 偽者はそっちやいうんに・・・」
その一言に動揺し、口を押さえて笑いを堪えたのは、なんと偽者呼ばわりされたシルビアだった。葉沙もゆとりはないようだが、口元だけ動かして笑っている。してやったりといった様子だ。零蘭たちはカヤの外に追いやられているせいか、事態がよくわかっていないようである。
息を切らしながら、葉沙がシルビアに向かって言い放つ。
葉沙「シルビアと私には、私たちが作ったオリジナルのサインがあるのよ。それをシルビアが使った時点で、アンタが黒って一発よ」
葉沙は指を指して断言した。
葉沙とシルビアは小、中学生時代に実はデュエルなどやらず、毎日を喧嘩に費やしていた時期がある。二人とも喧嘩がとても強く、葉沙は知略と武器を尽くして敵を圧倒し、シルビアは空手の有段者でさえ鮮やかにいなした。その時に葉沙はシルビアと二人だけの暗号を生み出した。パターンはいろいろあり、文字や動作、アイコンタクトなどが主だ。これは二人だけの秘密であり、今だ誰にも知られていない。つまり、これが使える者が本物ということになるのだ。
シルビア(偽)「なっ!?」
明らかな動揺を見せるシルビア(偽)とは正反対にゆとりの笑みをこぼすシルビア。
それもそのはずである。
本物だと証明してみせた。つまり自分と同じ背格好をしたいまいましいモノマネ人を叩きのめす理由と口実ができたのだ。
シルビア「大人しゅう観念したほうがええんと違います?」
シルビアの言う通りだ。実質、四対一の状況に追い込まれ、相手の混乱も望めない以上、葉沙達に分がある。さらに先程の騒動の間に、マリアが警察と動物病院に連絡を取っていた。きっとすぐに駆けつけてきてくれることだろう。
これでシルビア(偽)に打つ手はない。
零蘭「これでワタシ達の勝ちアルナ」
シルビア(偽)「そうとも限りませんえ」
そう言うと、シルビア(偽)は着物の袖から拳銃を取り出した。戦慄する葉沙達。しかしシルビア(偽)は葉沙達に銃口を向けず窓ガラスに向かって一発撃った。窓ガラスはあっけなく砕け散る。
そしてシルビア(偽)は銃で牽制することもなく、出来上がった逃げ道を使って外へと逃げる行動を取った。
シルビア「逃がしませんえ!!」
後を追おうとするシルビア。
マリア「ダメ・・・シルビア・・・!!」
マリアの制止など聞かず、シルビアは偽者を追って走り出す。二人はオリンピック選手も顔負けのスピードで駆け抜けていく。
すぐにシルビアを追おうとした零蘭だったが、力尽きた葉沙が前方で倒れかけてきた。咄嗟の出来事に反応しきれなかった零蘭は、
零蘭「わっ!?」
葉沙を抱くような形で一緒に倒れてしまう。その間に二人の姿は見えなくなり、完全に見失ってしまった。
葉沙「はやくシルビアを追いかけないと・・・」
そう言って追いかけようととするが、立ち上がることすらできないようだ。力すら入らない葉沙の身体を支える零蘭。
零蘭「葉沙、無茶アルヨ」
葉沙「行かなきゃダメなの。今動かないと大変なことが起きる気がするから・・・だから、お願い」
涙を流しながら、葉沙は懇願した。
クリアは自分に自問自答していた。
隣には小学生の少女、銀城明日香が抱えきれないほどの花束を大事そうに持っている。
経緯は単純にして明解。
零蘭やマリアに頼まれて、葉沙の残念会に出席することになったというだけのこと。それだけならば問題はない。シルビアと顔を会わせることだけは別問題だが・・・
問題はあれやこれやと準備を手伝わされたことから始まり、荷物持ちとして買い物で利用されたり、特別な仕掛けを作らされたりと、散々だった。しかも招待されたのは残念会当日という突然のことだったので、かなり慌てさせられた。おかげでろくに服を選ぶ時間もなかったほどだ。
明日香
そう、今は葉沙をビックリさせるために葉沙家から少し離れた場所で待機している。時間になったら携帯電話に連絡がくるはずなのだが、すでに予定の時間は過ぎている。
クリア「少し前のメールで葉沙が家に着いたことはわかっているが、それにしても・・・遅すぎる」
おかしい。
クリアはそう考えた。
いくらなんでも遅すぎる。
それに嫌な予感までするのは何故なのか。
クリア(そんなわけが)
自らの予感を否定するかのように軽く首を振るクリア。
その時、明日香が前方を指差しながらクリアを呼んだ。
明日香「クリアさん、あれってシルビア姉だよね?」
クリア「シルビア・・・だと?」
指を指されたほうを見るクリア。
その瞳に映ったのは確かにシルビアだった。誰かを追ってでもいるのだろうか、あさっての方へ全速力で駆けていく。
クリア(さっきの予感はこれか!)
舌打ちしながら、気が付けばシルビアを追って走り出す自分がいることに気づくクリア。
クリアは振り向かずに明日香に告げる。
クリア「君は葉沙の家に行くんだ! 僕はシルビアを追う!!」
明日香「ええっ!? ちょっと待ってください。いきなりそんなこと言われてもボクどうしたらいいの〜〜〜!?」
背中から助けを求める声が聞こえていたが、シルビアを見失わないようにするのが精一杯で、少女をかまうゆとりはなかった。
クリアの眼前には真っ黒な空間が当然のように存在していた。
シルビアを追いかけてきたのだが、完全に見失ってしまって・・・
周りを探していたら、この謎の空間を見つけたというわけだ。
クリア(誰かがデュエルしているのか、もしかしたらシルビアがこの中に)
直接見たわけではないが、なぜか直感がそう告げてくる。
シルビアはこの中にいると。
勇気を出して空間の中へと足を踏み入れるクリア。
そしてその先の光景はデュエルをしているシルビアと着物を羽織る老婆の姿。
クリア(シルビアが追いかけていたのは、この老婆だったのか・・・なぜだ?)
どうやらデュエルはまだ始まったばかりのようだ。お互いのライフポイントは減っていないし、手札もお互いに5枚持っている。
クリア「シルビア! 一体何をやっている? 葉沙の家で残念会をやるんじゃなかったのか!?」
クリアのほうを振り向いて驚くシルビア。
一方、老婆は不気味な笑みを見せた。
シルビア「クリア!? 早う逃げて!!」
いつもとは違うシルビアの様子に困惑するクリア。
その姿を滑稽そうに笑う老婆。
老婆「いいじゃないかい。その子も闇のデュエルに巻き込んでしまえば」
クリア「闇のデュエルだと!?」
闇のデュエルという一言に反応するクリア。
・・・闇のデュエル。
それはデュエリストの間で噂される都市伝説のようなもので、敗北者は闇に命を吸い取られると言われている。もちろん、本当に存在していると信じているデュエリストはいないだろう。なぜなら、闇のデュエルを実際にやった・目撃したデュエリストはいないのだから。
だが、シルビアはクリア以上に過敏な反応を見せた。
デュエル中にもかかわらず、相手に背を向けてクリアに駆け寄ろうとする。
が、黒い触手のような物体がそれを遮ってきた。それでもシルビアは必死にクリアに近づこうとする。その抵抗に闇の触手もさらに力を加えた。その細長い身体でシルビアを巻きつくと、宙に浮かせて地面へと叩きつける。クリア
叩きつけられた場所に石でもあったのか、額から血を流すシルビア。しかし、本人はそんなことを気にしてはいない。むしろ目の前にいる弟のことが心配でならないようだ。
クリアはこの異常は状況に危機感を覚えた。シルビアが危険にさらされている。
そう思った瞬間、勝手に足が動き出し、シルビアを救うために動いていた。
だが、シルビアはクリアに向かって首を振る。
シルビア「うちのことはええから! お願いやから早うここから逃げて!!」
シルビアの焦り様を感じて、この謎の物体を見て、クリアはようやく気がついた。
これが噂された命をやり取りする闇のデュエルだということを。
クリア「本当に・・・闇のデュエルだというのか・・・」
老婆「その通りだよ。ここに現れたのも何かの縁、大事な姉の最後を見届けなさいな」
クリア「最後だと・・・どういう意味だ!!」
老婆「見てればわかる。私の先攻だったねぇ、カードをドローさせてもらうよ」
1ターン目
シルビア&老婆「デュエル!」
老婆「私は〈カイクウ〉を召喚して、カードを1枚伏せるよ」
霊滅術師 カイクウ 闇 魔法使い族 4 ATK 1800 / DEF 700 このカードが相手に戦闘ダメージを与える度に、相手墓地から2枚までモンスターを除外する事ができる。またこのカードがフィールド上に存在する限り、相手は墓地のカードをゲームから除外する事はできない。 老婆「最初のターンは攻撃できないからねぇ。このままターンを終了するよ」
2ターン目
自分のターンになったにもかかわらず、動こうとすらしないシルビア。
老婆「安心しなさいな。デュエルが始まった時点で、その子はいなかった。だから闇のデュエルでどうこうなりゃしないさ。そんなことより、この場を生きたきゃデュエルおし。でないと次は・・・」
老婆は寒気が起きそうな視線でクリアを嘗め回すように見つめた。
シルビア「そんなことさせませんえ。絶対に・・・絶対にさせません」
大切な者を守るためにデュエルを決意したシルビア。自分の信じたデッキからカードをドローして先手を打とうとする。
シルビア「うちは手札から〈増援〉を発動! デッキからレベル4の〈ゼラの戦士〉を手札に加えますえ」
増援 通常魔法 デッキからレベル4以下の戦士族モンスター1枚を手札に加え、デッキをシャッフルする。
ゼラの戦士 地 戦士族 4 ATK 1600 / DEF 1600 大天使の力を手にいれる事ができるという聖域を探し求める戦士。邪悪な魔族からの誘惑から逃れるため、孤独な闘いの日々を送る。 シルビア「さらに〈テラ・フォーミング〉発動! デッキから〈天空の聖域〉を手札に加えて、そのまま発動させてもらいます」
テラ・フォーミング 通常魔法 自分のデッキからフィールド魔法カードを1枚手札に加える。
天空の聖域 フィールド魔法 天使族モンスターの戦闘によって発生する天使族モンスターのコントローラーへの戦闘ダメージは0になる。 シルビア「最初から本気でいかせてもらいますえ。〈ゼラの戦士〉を召喚し、さらにそれを生贄にして〈大天使ゼラート〉を特殊召喚します!!」
大天使ゼラート 光 天使族 8 ATK 2800 / DEF 2300 このカードは通常召喚できない。このカードは「天空の聖域」がフィールド上に存在し、自分フィールド上に表側表示で存在する「ゼラの戦士」1体を生け贄に捧げた場合のみ特殊召喚できる。光属性のモンスターカード1枚を手札から墓地に捨てる事で、相手フィールド上に存在する全てのモンスターを破壊する。この効果は自分フィールド上に「天空の聖域」が存在しなければ適用できない。 老婆「おやおや、そりゃまた強力なモンスターだねぇ。でも・・・」
〈大天使ゼラード〉が苦しみながら、奈落の底へと落ちていった。
シルビア「なっ!?」
老婆「少しばかり焦っているみたいだねぇ。プレイングに乱れがあるよ」
伏せられていたカードが開かれる。
そのカードは・・・
奈落の落とし穴 通常罠 相手が攻撃力1500以上のモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚した時、そのモンスターを破壊しゲームから除外する。 図星なのか、言葉を失ってしまうシルビア。
シルビア「・・・カードをセットして、ターン終了どす」
不利な状況に苦虫を噛んだような表情になるシルビア、見守ることしかできない自分に苛立つクリア、そして二人を嘲笑うかのような老婆の笑み。
運命の歯車は最悪な方向へと回りだした。