3ターン目
葉沙 LP 3000 手札:3 無し 無し ゴーゴン〈攻撃表示〉 無し 老婆 LP 4000 手札:4 葉沙「闇のデュエルなのに・・・なんともない?」
葉沙は自分の身体に異常がないことに驚いていた。
ラゴスとの闇のデュエルの最中にはライフポイントが減少するたびにその数値分だけのダメージが身体に直接与えられていたからだ。
だが今回は違う。骨折はおろか擦り傷ひとつしていない。
葉沙(どういうこと?)
身体にダメージがないことに疑念を抱く葉沙。
この空間のドス黒い空気は以前感じた闇のデュエルと同じものだ。
あれは演出などでどうこうできるものではない。
葉沙(もしかして闇のデュエルじゃない?)
老婆はそんな葉沙の思考を知ってか知らずか、見透かしたような態度を取る。
老婆「そうじゃないよ。お前さんのライフが減るたびに、闇はお嬢ちゃんじゃなくて、そこにボケっと突っ立っておるお友達を喰らっていくんだよ」
老婆はそう言って指を指した。
次の瞬間、葉沙は零蘭の右足に穴が空いていることに絶句した。ラゴスとデュエルしたときと同じ現象だったからである。
大きな違いは対象が自分でないことだけ。
ある意味でわかっていたことだというのに・・・
葉沙は自身の甘さに唇を噛む。
零蘭「あ・・・う・・・」
バランスを崩して地面に倒れる零蘭。その表情は青ざめ、とても信じられないといった様子だ。
しかし、悪夢はそれだけでは終わらなかった。クリア、明日香、マリアも同様の現象が起こっていたのである。
クリア「クッ・・・なんなんだ、これは!?」
明日香「葉沙姉! 痛いよ! 怖いよ! こんなの嫌だよ!!」
冷静を保とうとするクリア。
一方、明日香はこの状況と激しい痛みに混乱して泣き叫んでいる。
葉沙「待ってて、すぐいくから」
葉沙は明日香に駆け寄ろうとした。が、闇が足に絡まり動きを封じようとしてくる。
葉沙「コイツ! 邪魔しないでよ!」
振り払おうとするが、びくともしない。
マリアが足を引きずりながら、明日香のそばまで近づいて寄り添う。震える小さな身体を抱きしめながら、葉沙の方を向いた。
マリア「葉沙・・・大丈夫だから・・・今は・・・デュエルを・・・」
マリアは痛みを我慢しながら葉沙に心配させまいと笑みを浮かべる。しかしその笑みは震え、とても無事には見えない。
葉沙「でも・・・でも!!」
やはり放っておくことなどできない・・・できるわけがない。
葉沙は闇を引き剥がそうと全身に力を込めて足掻いた。だがそれでどうにかできるほど闇のデュエルは甘くはない。
さらに身体の締め付けをきつくなっていき、骨が軋んだ音が空間に響く。
葉沙「ッ!!」
肉が引きちぎられそうになりながらも葉沙は力を緩めようとはしない。
ここで諦めたらまた失う気がしたのだ。
目の前で消えていったシルビアのように。
だから諦めない。
絶対に助けてみせる。
葉沙「今の私を・・・こんなもんで!!」
自分の身が引き裂かれそうになりながらも闇に反抗する葉沙。
それを制止させたのは老婆の一言だった。
老婆「必死な所悪いんだけど、今はデュエルに集中したほうがいいよ。なんせお嬢ちゃんはあと2回も攻撃を凌がなきゃいけないんだからねぇ」
葉沙「あと・・・2回?」
葉沙は一瞬でデュエルへと引き戻された。
思考がデュエルの敗北の回避へと切り替わる。
老婆「〈ゴーゴン〉はね、バトルフェイズ中に三回攻撃が可能なんだよ」
ゴーゴン 闇 魔法使い族 10 ATK 3500 / DEF 2000 「レッドヘカテー」+「イエローヘカテー」+「バイオレットヘカテー」
自分フィールド上に存在する上記のカードをゲームから除外した場合のみ、融合デッキから特殊召喚が可能(「融合」魔法カードは必要としない)。このカードは墓地からの特殊召喚はできない。このカードは1度のバトルフェイズ中に3回攻撃する事ができる。一様に驚く面々。
攻撃力3000オーバーの上級モンスターを召喚されただけでも厄介だというのに、その上3回攻撃が可能だというのだ。
たった一度のバトルフェイズでライフを0にすることなど容易なパワーも持つモンスターを相手にして葉沙のフィールドには壁となるモンスターもいなければ伏せカードも存在しない。
このままでは・・・・・・
クリア「葉沙の残りライフは3000。このまま攻撃が通れば・・・」
マリア「ライフが・・・0に・・・」
老婆「そういうことさ。それじゃ二回目の攻撃だよ」
無数の毒蛇が葉沙に向かって飛びつこうとする。
だが、クリボーの集団がそれを遮る。
葉沙「手札の〈クリボー〉の効果でダメージを受け流すわ」
クリボー 闇 悪魔族 1 ATK 300 / DEF 200 手札からこのカードを捨てる。自分が受ける戦闘ダメージを1度だけ0にする。この効果は相手のバトルフェイズ中のみ使用する事ができる。 老婆「おやおや、こりゃなかなかじゃないか。だけど、二枚も手札にあるとは考えにくいねぇ」
葉沙「ダメ! やめて!!」
老婆の推測通りだった。
葉沙の手札にはもう〈クリボー〉はない。
これでもしダメージを受けようものならば、また零蘭達が傷つくことになる。
なんとしても防ぎたいところだが、今の葉沙にはどうすることもできない。
老婆「懇願されても止めるわけがないさ。なんたってこれが闇のデュエルの醍醐味なんだからねぇ」
葉沙「この人でなし!!」
老婆「何とでも言いな。口でどうにかできるんならねぇ」
三度目の攻撃がとうとう葉沙の懐に届いた。
無数の毒蛇が葉沙の全身に噛み付いてくる。
葉沙「きゃあああああ!!」
葉沙 LP 3000 → 200
葉沙はすぐに振り返った。これだけのダメージを受けたのだ。さきほどのケガの比ではない。
葉沙「あ・・・あっ・・・・」
残酷にも予想通りの結果だった。
皆の両腕や両足、腹は闇に食われており、立つことすら叶わない。地べたできた血の水溜りに転がった状態でただ痛みに耐えるだけ。
激痛と混乱に拍車がかかり、惨劇としか呼びようのない状況が確立される。
この状態になると他人を気にする余裕など皆無だ。自分の痛みと戦うことで精一杯で隣でなにが起こっているかなど目に入らない。
絶望の瞳に映るのは自らで生み出した血だまりだけ。
葉沙「お前エエエエエエ!!」
葉沙の頬に涙がつたう。
そして傷つく仲間の苦しむ表情を見ているだけの己に激怒し、あの感覚を思い出した。自分の周りにドス黒い瘴気が集まってくるのを、全身で感じ取りながら強く念じる。
足元に紅く輝く魔法陣が描かれ、その瞳に刻印が刻まれる。
老婆「これが箍外しの力ってやつかい。さっきのお嬢ちゃんとは思えない迫力だねぇ」
葉沙「これ以上、デュエルを長引かせるわけにはいかない」
小声で呟く葉沙。
とても力があるようには感じられないほどの小さな声だった。
しかし、次の瞬間に心を爆発させる。
葉沙「そうだ! だから私はァァァァァァ!!」
闇は応えた。
葉沙の周囲を渦を描きながら取り巻いていく。手の甲にも瞳と同じ不思議な文様が刻まれて赤黒く輝く。
闇は葉沙の呼吸に合わせるように脈を打ち、ドローする右手に集束されていく。
4ターン目
以前は漠然と力の使っていただけだったが、今回は違う。憎悪と激怒を持って強大な力を行使しているのだ。意識して使うことと、なんとなく使っていたとでは、その本質は全く異なるものとなる。大きさも影響力も、そして敵に対する破壊力も。
葉沙「魔法カード〈デッキ殺しの代価〉を発動。墓地のモンスターが10体になるようにデッキの上からカードを送り、3枚ドローする」
デッキ殺しの代価 通常魔法 このカードは墓地のモンスターが10体以上の場合、発動することができない。自分のデッキを上からめくり、墓地のモンスターが10体になるようにカードを墓地に送り、デッキからカードを3枚ドローする。 葉沙「〈デッキ殺しの代価〉の効果で墓地に送られた〈跳ねバネ〉の効果発動。このカードがデッキから墓地に送られた場合、手札に戻すことができる」
跳ねバネ 地 昆虫族 2 ATK 400 / DEF 600 リバース:相手モンスター1体を手札に戻す。このカードがデッキから墓地に送られた場合、手札に加える事ができる。 葉沙「さらに魔法カード〈生命を繋ぐ鎖〉を発動させ、ライフポイントを3000回復させる」
生命を繋ぐ鎖 通常魔法 墓地に存在するモンスターの数×300ライフポイントを回復する。 葉沙「これで私のライフは3200になったわ。さあ回復した分だけみんなの身体を返しなさい」
闇に向かって言い放つ葉沙。
だが闇は一向に動こうとはしない。
その態度に葉沙は声色を変える。
葉沙「私をこれ以上怒らせないで・・・消されたいの?」
次の瞬間、闇は再び零蘭達の身体にまとわり付き始めた。そして闇が離れると、ケガをしていたはずの場所が綺麗に治っているではないか。
葉沙は負の感情の集合体である闇にたった一言だけで恐れを感じさせたのだ。
無限に増殖し続ける彼等を殺せるだけの力を有しているのだと、彼等が認めたことになる。
零蘭「痛みが引いたアル」
ほとんどケガが治り、痛みも引いたことでようやく冷静さを取り戻した零蘭達。
しかし闇のデュエルの恐怖までが払拭されたわけではない。一様に顔を曇らせたままだ。
葉沙は振り向くことも無くそれを悟り、正面をむいたまま宣言した。
葉沙「もう大丈夫だから。絶対にみんなを傷つけさせないから。こんなデュエル・・・すぐに終わらせるから安心して」
自分に言い聞かせるような小さな声だったが、零蘭達に届くには十分だった。
表情に若干の明るさが戻る。
葉沙「手札から魔法カード〈偽りの生贄〉を発動! 手札を3枚を墓地に送り、3体の幻影トークンを特殊召喚するわ!」
偽りの生贄 通常魔法 手札を任意の枚数だけ捨てる。捨てた枚数と同じ数の「幻影トークン」(悪魔族・闇・星2・攻/守1000)を自分フィールド上に特殊召喚する。 老婆「3体の生贄・・・まさか!?」
葉沙「こんなデュエルはすぐに終わらせる! もうみんなを苦しめさせない! 誰も傷つけさせるもんか!!」
表情を強張らせる老婆。
一方、零蘭達にはまだこの事態を把握できてはいなかった。
クリア「葉沙は・・・なにを呼ぶつもりなんだ?」
葉沙「3体の幻影トークンを生贄に捧げ・・・現れなさい! 私だけの神!!」
零蘭「神!?」
マリア「神の・・カード・・・?」
明日香「葉沙姉は神のカード・・・持ってるの?」
神という一言に反応する面々。
それもそのはずだ。
クリア「バカな! 神のカードはデュエルキングしか所持していない伝説のカードのはずだ! 葉沙がそれを持っているわけが!!」
クリアの発言は正しい。
あくまで表の世界での話であるが・・・
しかし、神のカードは存在しており、そして今は葉沙の手中にある。
葉沙「降臨!〈暴の化身 シルヴァリオン〉!!」
主人の名の元に攻撃的なシルエットを曝した〈シルヴァリオン〉。
低く唸りながら、眼前の魔道士にその巨大な拳を構える。
老婆は目を見開きながら笑った。
まるでこの世のものとは思えないほどに感情を高ぶらせながら。
老婆「これが神のカードかい。あの小娘の言った通りだったわけだねぇ」
一方の葉沙にはゆとりの表情など一切無い。
目の前の敵に対しての殺意だけが瞳に燈っている。
葉沙「あんたはこれで終わりよ! シルヴァリオン! 全部粉砕して! さっさとこんなの終わらせて!!」
老婆「おやおや、こりゃ相当のバカだねぇ。冷静さを欠いたデュエリストなんて赤子と同じだというのに」
葉沙「黙れ、ババア!! 神撃して、シルヴァリオン!!」
〈シルヴァリオン〉はその狂気の拳を構え、周囲のエネルギーを込め始めた。
拳が光り輝き、さらに光度が増していく。
そして次の瞬間、背中のバーニア部分から圧縮された空気が爆発するまさにその瞬間。
老婆「待っとったよ、この瞬間を」
神撃する〈シルヴァリオン〉に勝機を見つけた老婆が叫ぶ。
それにいち早く気づいたクリアが制止の声をかける。
クリア「待っていた?・・・まさか! 葉沙、今すぐ攻撃を中止するんだ!!」
一足遅かった。
攻撃宣言はなされてしまったのだ。
もうキャンセルすることはできない。
老婆「今さら言っても遅いねぇ。リバースカード〈プライドの咆哮〉を発動させるよ」
プライドの咆哮 通常罠 戦闘ダメージ計算時、自分のモンスターの攻撃力が相手モンスターより低い場合、その攻撃力の差分のライフポイントを払って発動する。ダメージ計算時のみ、自分のモンスターの攻撃力は相手モンスターとの攻撃力の差の数値+300ポイントアップする。 老婆 LP 4000 → 3500
ゴーゴン
攻撃力 3500 → 4300〈ゴーゴン〉の召喚した無数の毒蛇に埋もれていく〈シルヴァリオン〉。
老婆はその光景を嬉しそうに見つめ、零蘭達は絶望の眼差しを送る。
マリア「・・・そんな・・・」
零蘭「このままだと、葉沙もワタシ達も」
埋もれゆく神を黙って見ているだけだった葉沙が突然叫んだ。
葉沙「そんな悪あがき程度のレベルで神を止められると思うな! シルヴァリオン、神の力を示しなさい!! オルタイレイション・バーサーカー!!」
葉沙が命じた瞬間、毒蛇の中心が輝き始めた。〈シルヴァリオン〉に喰らい付いていた毒蛇達がその光に耐え切れずに消滅していく。
老婆「なんだい? この光は」
咆哮しながら全身を輝かせ続ける〈シルヴァリオン〉。
大気と大地は震え上がり、周囲のものが粒子に変換されながら〈シルヴァリオン〉の拳に吸収されていく。
何が起こっているのか分からずに困惑する老婆に葉沙は神の力を刻んだ。
葉沙「神であるシルヴァリオンの最上級能力・・・手札、墓地に眠るモンスターをゲームから除外することで除外したモンスターの攻撃力分の数値だけシルヴァリオンの攻撃力を上昇させる。それが・・・オルタイレイション・バーサーカー!!」
老婆「なんだって!?」
葉沙「まだ足りないわ! もっと! もっと! もっと輝いて!! シルヴァリオン!!」
葉沙の命じるままに領域を超えた攻撃力を爆発的に上げていく〈シルヴァリオン〉。
その数値はすでに10000を超えていた。
だがまだ上昇をやめようとはしない。
零蘭「一体どこまで上がるアルカ!?」
マリア「墓地のモンスターを・・・全て・・・除外した・・・の・・・?」
〈お助け天使レティエル〉ATK1800(墓地) → 除外
〈リリボー〉ATK300(墓地) → 除外
〈クリボー〉ATK300(墓地) → 除外
〈跳ねバネ〉ATK400(墓地) → 除外
〈スィンセリティ・ガールLV3〉ATK1200(墓地) → 除外
〈スィンセリティ・ガールLV5〉ATK2300(墓地) → 除外
〈スィンセリティ・ガールLV7〉ATK2600(墓地) → 除外
〈プレズント・ガールLV3〉ATK1300(墓地) → 除外
〈プレズント・ガールLV3〉ATK1300(墓地) → 除外
〈プレズント・ガールLV7〉ATK2700(墓地) → 除外
〈サイレンス・ガールLV3〉ATK1400(墓地) → 除外
〈サイレンス・ガールLV5〉ATK2500(墓地) → 除外
〈サイレンス・ガールLV7〉ATK2800(墓地) → 除外
〈暴の化身 シルヴァリオン〉
攻撃力 4000 → 26000神の名に相応しい神々しい光を放つ〈シルヴァリオン〉。
もはやこれを止めることはできない。
それは神の力であり、絶対者のみが到達できる極みの領域なのだから。
暴の化身 シルヴァリオン 神 幻獣族 10 ATK 4000 / DEF 4000 このモンスターは3体のモンスターを生贄に捧げることで通常召喚する事ができる。相手フィールド上に存在するモンスターの数+1回だけ攻撃する事ができる。このカードが戦闘を行うダメージステップ時に発動できる。自分の墓地から任意の数までモンスターカードを除外する事で、このカードの攻撃力はエンドフェイズまで除外したモンスターの攻撃力分アップする。 明日香「凄い」
クリア「これが神の攻撃力・・・・・・デタラメすぎる!?」
今までのデュエルでも見たことのない数値の攻撃力に、ただただ驚くことしかできない面々。
唯一危機感を感じていたのは、神と対峙している老婆だけ。
老婆「こんなバカなことがあってたまるかい!!」
葉沙「これでシルヴァリオンの攻撃力は26000ね。蹴散らしてあげるわ! シルヴァリオン」
あまりに膨張しすぎた神撃が、毒蛇を操る魔女に向けられた。
防ぐという言葉は存在せず、また抗うことにも意味はない。
なぜならば、神は全知全能であって初めて神と称される。地上に生まれた時点で不完全な存在である彼等に神を殺すことは不可能なのだ。
これは絶対にして、単純なルール。
破ることのできない・・・戒め。
??「こんな話は聞いてないよ! 早く助けておくれ――ぎゃあああああああああああ!!」
老婆 LP 3500 → 0
神の一撃は闇の空間ごと打ち抜いた。
闇の空間はガラスのように割れながら消えていき、何の変哲もない空き地へと戻っていく。
老婆の姿も消えていた。
クリア「一体なんだったんだ?」
零蘭「ワタシにも訳わからないアル。ケガしたかと思えば、すぐに治たりスル」
マリア「でも・・・あれは現実・・・だったと思う」
明日香「ボクもマリア姉の言う通りだと思う。だって凄く痛かったもん。あんなの初めてだよ」
クリア「だが、あまりに非常識すぎる。あの状況も出来事も」
四人は闇のデュエルに関して疑問を抱いていた。
無理もない。
現実に起こり得ない現象を目の当たりにしたのだから。
だが、その疑問の答えを教えてくれる者はいない。
一方、葉沙だけは一人別のことを考えていた。
葉沙(シルビア・・・・・・私、シルビアのこと助けられなかった・・・助けられなかったよ)
大切な親友を失ったショックが再び葉沙を襲いだした。
さっきまで忘れていた罪悪感の塊が幼い心を握りつぶそうとしてくる。
泣きたい。
思いっきり泣きたい。
そうでもしないと自分で自分を殺してしまいそうになって・・・・・・
スィン(葉沙・・・えっと、その・・・)
デッキからスィンが現れた。
彼女も葉沙のことを心配しているのだろうが、どう言葉をかけてよいものか悩んでいる様子だ。
いつも勝気な葉沙の性格をよく知っているからこそ、気休めの言葉など意味をなさないことを理解している。
下手をすれば追い込むことになってしまうかもしれない。
ゆえに一言が思い浮かばないのだ。
葉沙「ありがと、スィン」
スィンの気遣おうとする心に感謝する葉沙。
でも心は沈んだまま。
ラゴスの時とは違うのだ。
失った者の大きさが、桁違いに・・・
葉沙「???」
葉沙は老婆の立っていた場所に何かが落ちていることに気づいた。
それは一枚のカード。
裏はデュエルモンスターズと同じ模様で表には「i」という一文字だけが書いてある。
零蘭「とにかくシルビアを探すアル。まだ遠くには行てないハズヨ」
クリア「じゃあ手分けし・・・葉沙、どうしたんだ?」
クリアが葉沙の異変に気づいて近づこうとした次の瞬間。
葉沙「・・・・・・」
葉沙は無言のまま地面に倒れた。
慌てて駆け出す零蘭達。
意識を失った葉沙には仲間の呼びかけに反応することはできなかった。
真っ暗な部屋で唯一見えるものといえば巨大なモニターだけだった。まるで映画館のような場所だ。
モニターを眺めている一人の老人は、モニターごしに見える少女の姿に満面の笑みを浮かべているようだった。
そして聞こえるか聞こえないかぐらいのしわがれた声で呟く。
??「ワシが望んだ王の力はついに目覚めた。古代の時代より万物を支配した絶対たる王の一族の再臨じゃ・・・・・・ヒャッヒャッヒャッ・・・・・・ヒャアアアヒャヒャヒャ」
老人は不気味な高笑いを続けた。