ノアが全勝したところで、今日のところは引き上げようということになった。
祐介「俺らは帰るからな」
渚「また来るからね〜」
ノア「ぇぇー。もう帰るの?もう一戦やろうよ」
祐介「ワガママはダメだぞ。俺らも忙しいんだ」
ノア「ちぇっ面白くないな。あっそうだ。大会の当日に外出できるか聞いておいてよ」
渚「うん。帰りにでも聞いとくね」
俺たちは主治医の先生に聞いた後、病院を後にした。
主治医いわく、最近のノアはかなり体調がいいので外出オッケーらしい。
帰り道。
祐介「渚ちゃん今日はバス?」
渚「はい」
祐介「じゃあさ、あのバス停の前にあるお好み焼き屋って知ってる?」
渚「あっ知ってますよ。何か変わったメニューがあるんでしたよね?確か…」
歩きながら考え始めた渚ちゃん。夢中になるあまり、電柱に当たりそうになったので手を掴んで引き寄せた。
祐介「危ないよ」
渚「あっありがとうございます。夢中になるとつい…」
俺は手をつないでいることを意識し始めすぐに手を離すと…。
渚「祐介さん反応が初々しくてかわいいです」
君のがかわいいよ。
祐介「正解を言うとクレープだよ」
渚「クレープでしたか美味しそうですね!」
祐介「元々クレープ屋だったけど、辞めてお好み焼き屋に変えたんだって」
渚「なるほどです」
祐介「せっかくだから帰りに食べていかない?」
そんな感じで帰りによっていくことになった。
店に入り席に着いた。
祐介「隠しメニューのクレープは二種あるけど渚ちゃんどっちにする?」
渚「チョコレートかフルーツですよね?どっちにしましょうか」
あれこれ考え始める渚ちゃん。しびれを切らした定員は一言。
店員「二人それぞれ別のものを頼まれて分けてはいかがですか?」
渚「あっそうしましょう。祐介さんいいですか?」
祐介「構わないよ」
祐介「じゃあチョコレートとフルーツを一個づつよろしく」
店員「かしこまりました」
しばらくしてクレープが来たが、店員が気をきかせたようで二人分に切られていた。
渚「祐介さんこれ凄く美味しいですよ」
祐介「ホントだね〜、この生クリームの冷たい感じと生地の温かさのギャップがいいよね」
渚「そうですよね」
と返事をした渚ちゃんはチョコレート味のクレープを食べ終えて、フルーツ味のクレープを食べようとした時だった。
突然、ガラスが割れる音がして音のするほうに目を向ける。
どうやら、店員がコップを片付ける際に手を滑らせたようだ。
祐介「コップが割れたみたいだね」
正面を向くと固まった渚ちゃんの姿と落ちたクレープがあった。
渚「私のクレープ…」
大きな音に気を取られたのだろう。
祐介「落ちちゃったものはしょうがないよ。俺の分でよかったら食べなよ」
渚「祐介さんは食べなくていいんですか?」
祐介「大丈夫。もう十分食べたからね」
美味しそうにクレープをほうばる渚ちゃんを存分に眺めたあと帰路に着いた。
あの日から3日はとても忙しかった。
話は3日前にさかのぼる。
刻は深夜1時、自宅に病院から電話が入った。
母は仕事の為、爆睡していたがたたきおこした。
父のほうは携帯に連絡を入れたが留守番電話に転送されてしまうようだったので伝言を残した。
俺は内心毒づきながら病院に向かった。
病室に着くと妹はベッドで寝ていた。
母「先生!ノアはまだ生きてますよね?先生!」
母親は主治医に問うが首を振り黙ったままだ。
その態度に腹を立てた母親は。
母「あんたどういうつもりなんだい?私たちがどんな思いをして高い入院費を出してると思ってるんだい!このヤブ医者!」
祐介「もうやめなよ母さん。こんなとこで先生を怒鳴ってもノアは帰ってこないよ」
この時の俺は何故かわからないがとても冷静だった。
きっとノアの死を理解できていなかったんだと思う。
そして、沈黙を守っていた主治医の先生は声を発した。
主治医「2時11分30秒轟ノアちゃんご臨終です」
先生の言葉を聞いて母親と俺は泣き崩れた。
俺と母親が泣き崩れている中、留守電を聞いてかけつけた親父が現れた。
親父と主治医はノアの通夜と葬儀などの話をし始めたが、俺の耳には届かなかった。
葬式や通夜のことはあまりよく覚えていないが、ノアの持っていたカードなどは全て棺と共に焼いてもらったという事だけは覚えている。
ノアは向こうの世界でも楽しく暮らせる事だろうと思ったからだ。
そして今に至るわけだ。
その時ちょうど携帯が鳴った。
from:渚
今から行きます。
やけにシンプルなメール内容だったが一体なんだろう。
メールを確認すると同時に玄関の呼び出し音がなった。
急いで出てみると玄関にいたのは渚ちゃんだった。
祐介「やぁ、渚ちゃんこんにちは、今日は何か約束してたっけ?」
渚「今日が何の日だったか覚えてないんですか?」
祐介「ここ2〜3日はドタバタしてたからね」
渚「そうですね。じゃあ答えです。今日はこの大会の日です」
チラシを見せられで俺は思い出した。
祐介「そうか大会だったね。…でもノアがもういないし出ても意味ないよ」
渚「そんなことないです。私はノアちゃんはもういないけど、代わりに大会に出ようと思ってます。だから祐介さんも一緒に…」
祐介「俺は遠慮しとくよ、うちにあるカード類は全部燃やしちゃったしね」
渚「それなら心配ありません、私が預かってますから」
渚ちゃんはバッグからデッキケースを出した。間違いなく俺が借りていたものだ。
渚「2日前にカード整理を手伝った時、勝手に預かってました。ごめんなさい」
祐介「…てっきり燃えてなくなってると思ってたよ。デッキはまだあったんだね。でも――」
すると俺の発言に重ねるようにして渚ちゃんは言う。
渚「きっかけはノアちゃんに言われて始めたんでしょうけど、決闘してて面白くなかったんですか?」
祐介「そんなことはないよ」
渚「だったら、やめる理由ってないですよね。だから、私と一緒に大会に出てノアちゃんの分まで私たちががんばりましょう」
祐介「分かったよ」
渚ちゃんこう見えて意外に熱いところがあるんだなとか想いつつ大会に行くことにした。
よし…出るからには頑張ろう。
祐介「大会は…13時開始だから、まだ大丈夫だね」
渚「そうですね。お昼はどうしましょうか?」
祐介「ちょっとしたものなら作れるから家で食べてきなよ」
渚「祐介さん料理できるんですか?」
祐介「両親が共働きだし、少しならできるってぐらいだよ」
渚ちゃんを居間に通して俺キッチンに向かった。
数分後、料理をお盆に乗せて持っていった。
祐介「お待たせ」
お盆にはあり合わせの野菜で作ったサラダとオムライス、コーンスープだった。
渚「凄ーい。祐介さんはいいお嫁さんになりますね」
祐介「お嫁さんてw俺、男だしwそういえば、渚ちゃんは料理できるの?」
渚「全然ダメなんです。この間ちょっと作ってみたんですけど、鍋を真っ黒に焦がしちゃって…私は食べる方の担当みたいですね」
祐介「鍋が焦げるようなものって何を作ったの?」
渚「渚特製ゴーヤ入りカレーです」
なぜゴーヤをチョイスしたかは深くつっこまないでおこう。
渚「ごちそうさまでした」
祐介「はいよ、じゃあ食器を片付けてくるから貸して」
そろそろ時間だから少し急がないといけないかもな。
俺は食器類を洗った後、うちを出た。
会場までは自転車で10分だから今から行けば余裕だろう。
そして俺達は会場である店に着いた。まずは受付しないとな。
祐介「すみません大会の受付をしたいんですけどいいですか?」
渚「ごめんな兄ちゃんもう予約人数分だけで定員オーバーだよ」
なんと。
渚「当日キャンセルがあるかもしれないから、一応名前書いといてよ」
受付をしていた店員にそう言われて紙を見ると俺と渚ちゃんの名前。
そして、ノアの名前があった。
祐介「あっ俺達の名前あるじゃん、渚ちゃん予約してくれたの?」
渚「私は予約してないです」
渚「私達じゃないって事はノアちゃんがしてたんですね」
祐介「…そうかノアが」
祐介「すみません俺達予約してたみたいです」
渚「あっそうなの?じゃ紙に名前かハンドルネーム書いて出してね」
名前を書いた後、ノアの予約枠はキャンセルして貰った。
大会は定員16名でトーナメント戦。4回勝てば優勝だ。もっとも運で勝てるほど甘くはないだろう
1回戦。
デュエルスペースの空きの関係で俺は待ちになったので渚ちゃんの応援することになった。
渚ちゃんの対戦相手はインテリメガネで少し太めのお兄さんだ。
渚ちゃんを舐めるように見たあと握手を求めている。
こいつ…なんか無性に腹がたってきたぞ…。
一方、渚ちゃんは笑顔で握手に応じている。
…寛大過ぎだろ。
俺が渚ちゃんだったら100パーセント断ってると思うぞ。
対戦相手はリールシャッフルをしつつ、友達と話している。
青年B「カッちゃんのライロなら楽勝だろー。やっちまえー」
青年A「一回戦なんか余裕だ。てかお前ネタバレ自重しろ!デッキ内容ばれるだろw」
青年B「すまんすまんw。ちょっと吊ってくる」
青年A「ww」
対戦相手は渚ちゃんを完全に舐めてかかっているみたいだ。
相手が言っていたライロというのはライトロードというモンスターを主軸にしたデッキタイプの事だ。
モンスター効果でデッキから墓地にカードを送り、墓地にライトロードが溜まったら裁きの龍という大型モンスターを展開するビートダウンデッキで大会でもお目にかかる事が多々あるらしい。
なんで俺が知ってるかって?そりゃノアが語りだすもんだから覚えてしまったんだよ。